観光案内所で貰ったマップを見ると、
湯の川温泉まるせんは、丸仙という漢字の宿名で表記されていて、湯の川温泉停留所と熱帯植物園前停留所の間に流れている湯の川の、熱帯植物園前側の川岸に建っているようだ。
だから湯の川温泉停留所からは、川を渡ってその川岸を川に沿って歩いていけば着く。
簡単じゃないか。
道に迷うとはこれっぽっちも思っていなかった。
それなのにマジで道に迷うとは。
大通りを歩き始めるとすぐに橋があった。橋の下は川が流れている。
橋を渡りきると対岸に公園のような場所が見えて、川沿いに遊歩道のような道が通っているのが判った。
なんの疑問も抱かずその川沿いの道を歩き始めた。
既に朝から晩まであちこち歩き過ぎで、特にレナはほとんど体力の限界なのか泣き言を言っている。
さっきコインロッカーから荷物を出したので手分けして持っても重い。それがますます足取りも重くする。
地図を見ると川の東岸で一番最初にある宿がまるせんなので、見間違えようがないと思う。
なのに歩けど歩けどそれらしい看板は見えない。
夜なので大通りから外れるとほとんど明かりもない。明かりが無いと手元の地図も確認できやしない。
あと少しあと少しと歩き続けると目の前に橋が見えてきた。
流石にこの時点でいくらなんでもおかしいと思った。
どこかで道を間違えている。でもどこで?
街灯の下で地図を確かめる。
・・・ま、まさか・・・
よく見ると川は二本あったのだ。
正確には海の手前で合流して一本になるのだが、バス停のあった道路はちょうど合流地点のわずかに手前なので、本当は二本川を渡って、二本目の大きい方の川の東岸を行かなければならなかったのだ。
しかし言い訳をさせてもらうと、観光案内所で貰ったマップではその合流地点の辺りはちょうどバス停の名前などでほとんど隠れているし、これが昼間ならもっと早くに気づいたと思うし・・・。
「ごめん、戻るわ」
レナに死にそうな顔をされた。
ごめんごめん、今度こそちゃんと宿に着くから。
結局私たちはわざわざ宿に近いからと本数が少なくて不便なバスを選んだのに、市電の湯の川温泉駅近くまで間違えて歩いてしまって、再びまたバス停の辺りまで歩いて戻らなくてはならないことになった。
こんなことなら最初から観光案内所に教えてもらった通り熱帯植物園前で降りるか、むしろ本数の多い市電で来るんだった。
後悔してもあとのまつり。
まるせんの灯りが見えてきたときには泣きそうだった。