** ケアンズと森とビーチの休日 **
willieさんはいったん川岸から離れて下流の方へ歩いていった。
私たちも後を追う。
下流でまたしばらく水面を見つめた後、willieさんは一人で上流へ戻ってしまった。
子どもたちは期待が膨らんでいるのにカモノハシが姿を現さないので少しぐずり始めた。
ここで騒がしくしてしまうと身も蓋もない。野生動物は私たちの都合で姿を現してくれるわけではないから、見られないときは見られないのだ。
なんだかんだと子どもたちをなだめながら水面を探していると、ふと怪しい動きを見つけた。対岸の二本並んだ木のすぐ下だ。
辺りはだんだん薄暗くなってきて、風も冷たい。
離れたところを歩いていたパパを手招きした。
「ほら、あの辺、さっきから時々動いている。カモノハシだと思う」
でも子どもたちやパパに教えると、ぱったりというように水面は動かなくなってしまった。カモノハシはどこへ行ったんだろう。
willieさんを探すと、彼は最初にいた場所に戻っていた。
そして私たちが来ると水面を指さして、「さっきからあの辺りを一匹、円を描くように回っているんです」と教えてくれた。
指さしたあたりが動いた。
何か黒っぽいものが水面の蓮の葉を押し上げるようにして動いた。カモノハシだ。
そこでようやく気づいた。willieさんが指し示している場所は、下流から私が見上げていたのと同じ場所だった。二本の木が並んで立っている。やっぱり私が見つけたのもカモノハシだったんだ。
もう一度蓮の葉が動いた。カモノハシはまだ逃げていないようだ。
「向こうはこちらに気づいています。だから警戒してあれ以上近づいてきません。でも静かに待っていれば近づいてくることがあります。何というか、忘れてしまうって言うんでしょうか・・・」
可笑しい。何だかカモノハシって可愛い。
willieさんは本当にカモノハシのことを熟知している。この川に行けばカモノハシが見られるとかそういうだけじゃなくて、カモノハシの動きや考えを見抜いて裏を掻こうとしている。
「シッ、潜りました。潜っている間に川岸まで降りればもしかしたら目の前でカモノハシを見ることができるかもしれません」
そう言われて私たちは急いで、でも音を立てないように注意しながら川に近づいた。
枝をかきわけて、そーっとそーっと。
つま先が水際に届きそうな場所まで降りた。
息をひそめる。
カモノハシは出るか・・・。
残念。
やはり気配を感じて警戒したものか、カモノハシは少し離れた場所にいったん浮かんできた後潜ってしまい、それきり姿を消してしまった。
「カモノハシも巣に戻ってしまったみたいだし、そろそろ私たちも帰りましょうか」
しばらくしてパパが言った。
子どもたちが限界であることを見越しての発言だ。
私はまだもう少し粘りたかったけど、次にカモノハシが姿を現すのがいつになるかもう判らない。
「そうですね」
何となくwillieさんも諦めきれないような表情だった。
たぶん私たちにもっと近くでカモノハシを見せてあげたいと思っていたのだろう。
いつの間にか日は落ちて、辺りの景色は紫色に染まっていた。