** ケアンズと森とビーチの休日 **
パパが先に立って中に入ると、既に女性が一人待っていた。
赤いカーディガン姿の彼女は、どうやらローズガムズのオーナー、ペータらしい。確か旦那さんのジョンと一緒にウェブサイトに画像が載っていた。聞くとジョンは今、ニュージーランドに行っていて留守だということだった。
パパは早速チェックインの手続きを始めたが、私は母屋の中の様子に目を奪われていて全然そっちは聞いていなかった。
三角屋根の下は一部二階部分があるが後は吹き抜けで天井が高い。
木造のテーブルと椅子があって、カウンターの裏には地球儀とぎっしりと本の並ぶ本棚。
隅には開けっぴろげで素朴なキッチンがある。
奥の方にはちょっとしたミーティングに使えそうなコーナーがあって、そこにも木造のテーブルと椅子が並んでいる。
不思議とアジアンな装飾品も多く、うちわや壷やモビール、日本のものもあった。
一番素敵なのはバルコニーだ。
広いバルコニーには切り株を利用したテーブルがあって、やっぱり木の椅子が並んでいる。
景色はまさに思い描いていたそのもの。原生林の森を見下ろすようになっていて、遠くに大きな山が見える。
話をしているペータとパパのところに戻ると、ちょうど何か説明されている最中らしい。
明日の9時半にバードウォッチングツアーに出かけるんでしょ?というようなことをペータが言った。
えっ、そのことは何も言っていなかったはずなのにどうして知っているの?
そうだそれより確認しなきゃいけないことがあった。
「明日の朝食は何時からですか?」と急いでパパがペータに聞く。
9時半にはもうバードウォッチングに出かけなきゃならないから、朝ご飯は早めにしてもらった方がいい。
何時からと聞かれて、ペータはおかしなことを聞く人たちねぇという顔をした。
「朝食の時間なんて決まってないわよ。だってあなたたちが作るんだもの」
はいー?
わ、私たちが作る? 朝食を?
えーと、朝食ハンパーって・・・?
「ハンパーはもうあなたたちのフリッジに入っているわよ」
フリッジって、えーと、冷蔵庫。冷蔵庫にハンパー(バスケット)が入っている?
湯気の立つコーヒーや紅茶と一緒にカントリースタイルの大きなバスケットにサンドイッチやサラダ、綺麗に盛りつけたフルーツなどを入れて、「モーニーン!!」と宿の人が届けてくれるイメージががらがらと崩れていった。
何だか知らないけど、何かが違っていたらしい。