12.レストラン・スコッティーズ
「何にする?」
「本日の魚料理が気になる。コーラル・トラウトだって。珊瑚礁の鱒? 食べてみたい」
「じゃあそれと、本日の肉料理、それからオイスターも頼もう」
いいの? 生牡蠣苦手なんでしょ?
私は好きだけど。
この間、牡蠣にあたってからすっかり牡蠣に懐疑的なパパのはず。
料理が運ばれてくるまで子供たちを大人しくさせるため、パパはとっておきのものを取り出した。
「いい子にしているって約束できたら、これをあげよう」
「うわぁ」
「うそっ」
パパが取り出したのは、ハム太郎のキャラクター人形。
大人の親指ぐらいの大きさでいろいろな種類がある。カナとレナが今一番気に入っているおもちゃだ。
主人公のハム太郎人形は日本でなくしてしまったので、二人は、リボンちゃん、ラピスちゃん、にじハムくん、プリティ、キューティ、ビューティ、おとめちゃんなどの人形を今日も持ち歩いていた。
パパが買ってきたのは、タイホくんとライオンくんだった。
「絶対いいこにする」
その誓い、忘れないでよ。
カウンターのところで働いている店のお姉さんをしきりと「いかにもオージーらしい顔」と評していたパパは、ふいに、今店に入ってきたファミリーは絶対オージーじゃないぞと言い始めた。
「何で判るの?」
「顔立ちが違う」
振り返ってみたときは、もう一家は席に着いていて後ろ向きになっていたので私には判らなかった。
しかし、その一家の顔は私もその後はっきり見ることができた。
なぜなら、しばらくして一家のパパが小さな娘を連れて私たちのテーブルにやってきたからだった。
「ハーイ」
金髪のくるくる巻き毛の小さな女の子を連れた若いパパは、いきなり私たちのテーブルの横にやってきて話しかけた。
た、確かに、オージーじゃない・・・と思う。
褐色の長い髪をオールバックにして後ろでたばねた若いパパの顔は、鋭く彫りが深く眉が繋がりそうだ。
どこの国の血筋なのかまったく判らなかった。
白人か黒人かも判らない。スパニッシュ?・・・とも違う感じ。
「これはなあに?」
カナたちが遊んでいた人形を指さす。
「ハムスター」
どうもちっちゃい娘が退屈して店に迷惑をかけないように、同じく子供連れだった私たちの方へ遊びに来たらしい。
パパがひとつひとつ指で差しながら名前を教える。
「リボン、ラピス、プリティ、キューティ、ビューティ・・・にじハム・・・にじ、レインボウ」
「レインボウ!!」
国籍不明の若いパパも、自分の娘に繰り返してやる。
「プリティ、キューティ、ビューティ、レインボウ・・・」
そして、「どこから来たの?」
「日本から。あなたは?」
「サウス・アフリカ」
サウス・アフリカー!? それじゃ判らないわけだ。
「どこに泊まってるの?」
「ウォンガリンガ」
「ああ、あそこはいいねぇ」
そしてまさか私たちは、また後で彼らに会うことになるとは、このときはまったく思わなかった。