1.夜明けの海
五日目 5月2日(月)
グレートバリアリーフは大陸の東側に連なっている。
だからこの辺りの海岸では海から日が昇る。
東の空が藍色から菫色に変わってきたのが部屋からも見えた。
去年も一昨年も、オーストラリアに来ると早起きして海岸を散歩するのがパパの日課になっていた。
「あれ? 散歩についてくるなんて珍しいじゃない」
確かに。
私がこんなに早起きして、夜明けを見に海岸を歩いているなんて珍しい。
「いいじゃない。だってここは目の前が海なんだもん」
「近いと来て、海から遠いと来ないのね、なんだいそれ」と笑いながらパパ。
昨日の夕刻と違い、かなり潮が満ちていて砂浜は狭まっていた。
海の上空は刷毛で描いたような薄い雲が少し棚引いて、水平線近くにはもう少しまとまった雲の固まり。
全体的にはよく晴れている。
ダンク島の北側の水平線が茜色になってきた。
低いところにある雲が、火事で燃える煙のように真っ赤に変わる。
綺麗だなぁ・・・
日の出はもうすぐだ。
パパが、「ここの日の出前の海は紫色になるんだな」と呟いた。
ポートダグラスの夜明けと色が違うと言う。
「海岸の砂の粒子の大きさが違ったりすると、反射率が違うんだよ」
本当ー?
その説が本当かどうか判らないけど、海の色は本当に桜貝にも似た紫色だった。
沖に浮かぶ小島が、まるで碁石のように下がすぼまって見える。
こちらはたぶん大気と海面の温度差からレンズのように曲がって見えるのだと思った。