14.ファームの小鳥たち
子牛がお腹一杯になった後、今度は庭を案内してもらった。
ちょうど母屋の前にパティオがあり、ここからファーム全体が見渡せるようになっている。先ほど気になった洗濯物が干してあるあたりだ。
煉瓦を積み上げた囲いの中は家庭菜園になっている。
苺にトマト、ネギにナスにハーブ類・・・シンディはひとつひとつ丁寧に説明してくれる。
青々したトマトの臭いは、日本のスーパーで売られているトマトとはまるで違う野性的な臭いだった。
この後、驚いたことがあった。
物怖じして親に張りついているレナと違い、日頃学校では「大人しい」と評価を得ているのに妙に何処にでも順応するタイプのカナは、やおらセイラに連れて行かれてしまった。
どうもセイラの部屋の中まで行ったらしい。
後から本人に聞いてびっくりした。
カナはけろりとして、おもちゃがいっぱいあったよと教えてくれた。
パパは適当なところで「荷物の整理をしなきゃならないから」とか何とか言ってコテージへ戻ってしまった。
たぶん疲労がピークに達しているのと、かんばってホストファミリーと意志疎通を試みると言った妻を試すつもりで。
残されたのは英語がしゃべれない私とカナとレナ。
どうする?
カナとレナが母屋の軒下の檻を見つけた。二羽のインコが入っていた。
「小鳥が好きなの?」とシンディがケージを開けてくれた。
ばささっと灰色のインコと、頬にオレンジの丸のある白っぽいインコが羽を広げて出てきた。
シンディが灰色のインコをレナの肩に乗せてくれた。
大人しい。
レナは直接爪が当たるんじゃないかとちょっとびくついている。
ロッキーが来て、インコをつかんだ。両手で振り回して飛ばしてみたり、二羽を得意そうに両肩に乗せたりしてくれる。仕草は乱暴だが、小鳥が可愛くて仕方ないようだ。鳥たちも背中を捕まれても嫌がらないようだった。
カナはレナより鳥が好きなのだが、今回は何故か一歩引いていてなかなか肩に乗せたがらなかった。
仕方ないのでママが手首にとまらせる。
レナも同じことがしたくてたまらないのだが、何故かレナの手首に乗せようとすると、インコたちは勝手に腕を歩いて登って肩に乗ってしまう。レナの肩が気に入っているようだ。
さらに胸元に降りてきて、不思議そうにレナのカーディガンについたボタンをついばんでいる。半透明のそのボタンは花の形をしていて、レナは「この鳥さん、本物のお花だと思っているよ」と笑った。