11.アイカンダ・パークの謎
12時を回って、今度こそ真っ直ぐファームへ向かうことにした。
チェックイン時間は2時だが、この天気だし可能なら部屋に入れてもらえるだろう。
ここで初めて地図を見る。
もうこの辺りはだいたいどこに何があるか判っているので、今に至るまでほとんど地図を見ていなかった。ずいぶんケアンズに馴れたものだ。
えーと、目指すアイカンダ・パークはマランダからミラミラ方面へ16キロ行き、ナッシュロードという脇道に入ったところにあるらしい。
マランダとミラミラの間にはターザリという集落があるがそれより先だろうか。
ターザリを過ぎて、更にターザリ湖を過ぎて、あっと思ったときには行き過ぎていた。
相変わらず真昼とは思えないような暗い空の下、引き返して脇道に入った。
ナッシュロードに入って直ぐにアイカンダパークの看板があった。
ガタガタと泥の坂道を登ると、そこがアイカンダパークだった。
小雨がしとしと降る中、車を降りて辺りを見回した。
入って直ぐ右手に私たちが泊まると思われるコテージがあり、その先左手に車庫と母屋がある。
車庫の入り口は開いたままで、外側に大きなごつい四輪バギーが停められていた。人の気配は無い。
もう少し先まで行くと、母屋のあるところは丘の上になっていて、幻想的な光景が広がっていた。緑色のパッチワークがどこまでも続く。
ミラミラに
ミラミラ・ルックアウトという景勝地があるが、ここからの眺めは遜色無いぐらい。
ただ、あまりにも天気が悪く今日この時間は魅力が半減どころか1/10ぐらいになっていた。
しかも目を丸くしたのは、洗濯物が干してあったことだ。
・・・信じられない。
どうして雨が降っているのに外に洗濯物が干しっぱなしなの?
急に降ってきた通り雨だっていうなら判るけど、この雨は1日降りっぱなしなんじゃないの?
ずぶぬれの物干しには、タオルやシャツや子供用のズボン・・・。
子供用のズボン??
だってこの農場を切り盛りしているのは老夫婦二人では?
そう思って見ると、庭のあちこちに散らばるおもちゃ。
乗って遊べるプラスチックの車や、泥だらけのボール、草の間に落ちている人形・・・。
どう見てもこの家には小さい子供がいる。
・・・老夫婦の孫が、週末ごとに町から遊びに来るとか?
いや、そんなものじゃない。この遊具は今の今まで誰かが遊んでいたかのようだ。
きょろきょろしていると、一台の車が入り口から泥を蹴立てて入ってきた。
運転席にいるのは金髪の女性で、他に子供が二人乗っている。
車が車庫に入ると、まず子供たちが飛び出してきた。
前髪を切りそろえたさらさらの金髪の女の子、7歳のカナより背が高い。
それから坊主頭の腕白そうな男の子。5歳のレナよりかなり背が高いが年は同じくらいだろうか。
二人とも膝上までは小綺麗にしているのに足は裸足のまま平気で泥の中を歩いている。
車から降りてくるなり二人でぺらぺらぺらと話しかけてきた。
さ、さっぱり判らない。
いきなりの展開に目を白黒させている私たちに、最後に車から降りてきた生命力溢れる女性が、「私がシンディよ」と名乗った。