11.ママのリラックスタイム
「うつぶせになって足、体、首、それから仰向けになって腕とデコルテをやるわ。別にあなたはただリラックスしていればいいから」
そして
「全部脱いでね」
え、ええっ。
ぜ、全部脱ぐんですかい? ここ、オープンエアですけど・・・。
「大丈夫、私は見ないから」と彼女は目を隠すジェスチャーをしてみせた。
ひゃ~。
何だかよく判らないまま、言われた通りにしてマッサージベッドに上がった。
このベッド、鯉の乗る、まないたのような気がしてきた。
うつぶせになると、ぱさりと布が掛けられた。
あっ、何かいい匂いがする・・・。
昔、まだレナがお腹の中にいた頃、沖縄のカヌチャリゾートでアロマのフットマッサージを受けたことがあった。
そのときセラピストの女性に、妊娠中は流産・早産の危険があるといけないからアロマは使いませんと言われて、単なるオイルマッサージになってしまった。
どんなアロマを使ってくれるのかなぁと期待していただけにがっかりだった。
そんなこともあって、今回もどんな香りがするのかかなり気になった。
何の匂いかな。
スーッとする清涼感のあるよく知っている匂い。
あっ、タイガーバーム!!
・・・な、わけないか。
ここはオーストラリア。
これはユーカリオイルだ。
マッサージは足から始まった。
ちょっと力加減が強いかな。
仕事をしていた頃、職場が西新橋のオフィス街だったので、よく新橋界隈のクイックマッサージに通っていた。
だからちょっとマッサージの腕には五月蠅いかも。
力加減は強いと感じさせないのに効くのが一番良い腕なのだが、今回はまあ60点というところ。
ただ、うつぶせになった背には海の風が感じられ、耳元には寄せては返す波の音・・・。この環境で受けるマッサージは、もう腕はさっ引いても200点満点。
こりゃいいや。
来年来たら、また頼もう。
いつの間にかプールサイドから聞こえていた子供たちの歓声も消えて、楽園の夢心地。
そうっとマッサージの手が放れて、少し離れたところでセラピストの彼女と下のプールサイドにいるパパが話している声が聞こえた。
「ええそう、彼女はリラックスして寝ちゃったわ」
ちょっと待て。
寝てないってば。
思わずがばりと起きあがった。
「フィニッシュ?」
「フィニッシュよ」
終わりなら終わりって言ってよー。
動いちゃいけないのかと思って固まっていたよ。
施術料は1時間で45ドル。
パパがお釣りもあげちゃっていいよと50ドル札を置いていった。
こちらが服を身につけている間、彼女はちゃっちゃとベッドを畳んで手提げに仕舞った。
いつ払えばいいんだろう。
彼女は既に両手に荷物を提げている。
「お代は・・・」
「そこに挟んでくれる?」とベッドの入った手提げ鞄を顎で示された。
50ドル札と、ふと思い立って折り鶴も一羽一緒に挟んだ。
「じゃあね」
そう言うと彼女は颯爽と階段を下りていった。荷物の重さも微塵も感じさせず。
ふむ。
釣りはいらないと言うどころか、こういうとき釣りをくれなんて野暮なことを言ってはいけないわけね。
店を構えず各アコモデーションにちらしだけ配り、連絡があったときだけやってきて仕事する。ほとんど元手はかからず、腕一本が勝負。なるほどねぇ。