12.Lady Douglas号の出航
船の中には既に10人ぐらい乗客が乗っていた。
日本人は他にいない。まあ、
レインフォレステーションや午後3時の
グラナイトゴージと違っていないだろうなと思っていた。
完全に家族経営の船で、運転するのはパパ、接客はママ、たまたまクルーズに参加した子供の相手をつとめるのはスタビーと言う名のビーグル犬、そして愛想を振りまいているのはなんともう一人の蒸気船のクルー、6ヶ月のベイビーだ。
この赤ちゃん、いったい生後何ヶ月から船上でオシゴトしてるのだろう。
ブッキングの確認をしたり、シャンパンを配ったりと忙しいママは相手をできないから、たまたま「まあ可愛い赤ちゃん」とのぞき込んだ人の腕に自動的に預けられることになる。
この日その恩恵にあずかったのは赤いシャツを着たご婦人だった。
たまに誰も抱っこ希望者がいないと、彼(彼女?)は、ベビーカーにくくりつけられるらしい。ごつい3輪ベビーカーが船の片隅に積まれていた。
シャンパンが配られると、蒸気船はリズミカルに桟橋を離れる。
スタビーはとにかく落ち着きのない犬で、ぐるぐると絶えず船内を走り回っている。
蛇行する緑濁色の川をさかのぼり始めると、マリーナに停泊していた気取り屋のクルーザーと違って、錆の浮いた味のあるクルーザーがしばしば川岸で揺れている。
他の乗客は船尾でくつろいでいたので、子供たちを連れて船首に出てみた。
青空が広い。水辺は静かだ。