子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★★☆☆ 泉質★★★★☆ 湯温は冷たいぐらい、泉質は特に刺激など無し
- 設備★★☆☆☆ 雰囲気★★★★☆ 子連れも受け入れてくれるが、湯治客が多いので赤ちゃん連れには向かない
子連れ家族のための温泉ポイント
信玄の隠し湯と言えば甲信地方に点在しているが、最も有名なのはここ下部温泉郷ではないだろうか。
中でも川中島の合戦の後、武田信玄自身が傷を癒したとの言い伝えの残る由緒正しい温泉が、古湯坊源泉舘のかくし湯大岩風呂だ。
古湯坊源泉舘には本館と別館神泉、第二別館と三つの棟があり、別館神泉の地下にかくし湯大岩風呂はある。
この風呂はどこかで湧いたお湯を溜めているのではなく、まさにそのまま足下から自然に湯が湧いている場所に板を敷き、入れるようにしたものだ。
広さは15畳、湯量は毎分200~400リットル。温度は冷たく感じるほどの30度前後だ。
本栖湖から身延山方面へ伸びる国道300号線から左へ曲がるとすぐに身延線の下部駅の線路をまたぐことになる。
そしてそこからは、常葉川の支流下部川に沿って、川沿いに張り付くように伸びる温泉街が続いている。
明らかに湯治客で栄えてきた風の鄙びた店舗が並び、独特の雰囲気を醸し出している。
橋を渡ると益々道は細くなった。
ここには足下湧出の天然岩盤風呂を持つ大市館と古湯坊源泉舘の二軒が建っている。
はじめは男女別浴の大市館を訪問するつもりだったが、こちらは中学生未満の子連れは立ち寄り・宿泊ともにお断りと言うことで、古湯坊源泉舘に入浴を乞うことにした。
古湯坊源泉館は大市館の横にある細い路地を入ったところにある。
ちょうど路地に入ると正面に赤い古びた鳥居が見えて、その右側に源泉館の別館神泉が、左側に本館の建物があった。
別館もだが、本館の建物も路地向かいの大市館と比較するとえらく鄙びている。
湯治場的と言えば聞こえはよいが、要はかなりがたが来ている感じ。
日帰り入浴料は大市館と同じ千円の設定だが、古湯坊源泉館の方は受け入れ時間も長く気軽に立ち寄れる雰囲気がある。
帳場ではまず「混浴ですが宜しいですか?」と聞かれる。
知らずに入って困る人もいるようで、先に伝えておくのが決まりのようだ。
大市館のつもりでいたから、予備のタオルを取りにいったん車に戻った。
古湯坊源泉館の混浴風呂は、一応タオルを巻いて入って良いことになっている(但し、厚手のタオルや膝下までのタオルは禁止と書かれていた)。
入り口入ってすぐ、右手が男性用脱衣所、左手が女性用脱衣所になる。
脱衣所は棚だけが並んでいる細長いもの。
先客もいる。帳場でも「混んでいると思いますよ」と言われたが、やはり下部温泉は湯治場、日曜日の昼間でも、空くと言うことは無いらしい。
脱衣所を出ると薄暗い石と岩を組み合わせた通路で、正面にいきなり男性用脱衣所の入り口がある。
脱衣所だけは男女別だが、もういきなりここから共通スペースなのだ。
右手奥に小さめの岩風呂が見える。
ここは加熱浴槽(お風呂の画像は加熱浴槽のもの)。
加熱浴槽の脇にシャワーとカランがあったので、これで軽く流した。
トイレに通じる通路もある。
まさに長湯仕様だ。
左手は下へ降りる階段がついていて、見下ろすと15畳の広い浴槽に何人もの男女が入っているのが見えた。みんな静かに壁を背にして座っている。
これが元から湯の湧いている岩盤を利用した足下湧出の天然源泉浴槽だ。
開放的な露天風呂などと違って、地下室のような浴室なので一種独特の雰囲気だ。
降りていく途中で、壁の高いところに神棚が見えた。
傷を癒すこの湯は、まさに神の賜だと思われたのだろう。
源泉浴槽に足を入れてみると、予想したよりは冷たくなかったが、それでも湯と言うよりは水のように感じる。夏場でなかったら勇気がいるところだ。
そろそろと肩までつかると、冷や冷やとしたぬるい湯が全身を包み込んだ。
不思議な感触で、タオルを巻いていることがあまり気にならない。
肌にしみ通るような気がする。
しばらく入ってから、上の加熱浴槽にも行ってみた。
周りに貼ってある注意書きにも交互に入ると良いと書かれている。
加熱浴槽はまあ適温。
赤錆び色に染まった岩の湯口があって、そこからは冷たい源泉が出ている。
飲んでみると何とも言えないほのかな水の臭いと、硬さを感じる喉ごしだった。
漏斗のようなものも置いてあって何をするものかと思えば、それで持ち込んだペットボトルに源泉を汲むことができるのだった。
もう一度、源泉浴槽に戻る。
ほとんどの入浴客はさっきからまったく動かない。
端の方に板を張っていない剥き出しの岩盤があるので、そちらへ移動してみた。
板を張っていないところはもともと浅くなっているのだが、それでも板との境目あたりに足を入れてみたら、部分的に大人の首ぐらいまでくる深さだった。
まさにこの岩の隙間から自然に湧いているのだと思うと感慨深い。
人間が周りを囲い、床を張る前からここには大きな天然の浴槽があったのだ。
二岐温泉大丸あすなろ荘の源泉浴槽を思い出した。
こんな風なお風呂に入れると、本来の温泉とはどういうもので、どうあるべきか、いろいろと考えさせられる。
無理矢理に千メートルも千五百メートルも掘削して、機械仕掛けで汲み上げる温泉と一緒にしてはいけないのだろう。