子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★★★☆ 泉質★★★★★ 泉質に刺激なし
- 設備★★★★★☆ 雰囲気★★★★★ 貸切風呂あり
子連れ家族のための温泉ポイント
かの芥川龍之介が身内に書いた手紙に、水族館のようだ、一見の価値があると記したお風呂がこの旅館にある。
登録有形文化財の宿で、もちろん古く趣があるのだが、それだけでなく新しい。どういう意味?と思うかもしれないが、同じ木造であっても、磨き上げ、場合によっては削りなおして真新しい白木のように見える、そんな宿。
だから重厚感がありながらも隅々まで明るく綺麗。ちなみに天平風呂という浴室も文化財登録されている。つまり文化財のお風呂に入れる宿。
さて、取材の一環でこの荘厳さ漂う文化財の天平風呂を撮影させていただき、さらに貸切で入浴させてもらうことができた。あまりにも贅沢な体験。目が回りそうだった。
天平風呂は天井が高く、大きな、しかしすべらかな石が自己主張している。柱も太く堂々として…もうこのサイズの檜の丸太は今ではまず手に入らないのだそうだ。丸太は乾燥させると割れ目が入りやすいのだが、割れない部分を削りだしてこの太さのものをそろえるためには、とてつもないサイズの檜の木が必要だから。
浴室のすぐ隣は鯉の泳ぐ池で、池に面した壁の低い部分にはガラスがはめ込まれている。ここから時々泳ぐ鯉が見られる。芥川龍之介が水族館と評して面白がったのがこれのことだ。
この池には見て楽しむ以外にちゃんとした役割がある。なんとそれは熱交換。以前は池越しの庭で湧く60度ほどの源泉を、パイプで池の中を通して温度を下げていたそうだ。今も天平風呂の窓からはなごりの緑の櫓が見える。
なごりというのは、今はもう修善寺温泉の源泉は集中管理で共通の源泉が配湯されているからだ。
肝心のお湯はすっきりと無色透明。ほぼにおいはしない。行政の指導もあり清掃後は塩素消毒をせざるを得ないのだが、その後は源泉に掛け流されていくそうで、この時も特に消毒臭はしなかった。
こんなに歴史を感じる宿なのに、ブック喫茶やリモートワーク対応の試みなどいろいろ模索しているという。古いけれど新しい、今も進化途中にある老舗旅館。最近ではテレビドラマ「プロミス・シンデレラ」のロケ地になった。さすがに物語に登場する若いイケメン兄弟の経営者はいないかもしれないが…。