子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★☆☆☆ 泉質★★★★☆ 加熱しすぎで熱い時がある。滑りやすい泉質なので注意。
- 設備★★★★☆ 雰囲気★★★☆☆
子連れ家族のための温泉ポイント
奈良時代に創建されたとされる真言宗豊山派総本山の長谷寺は、花の御寺としても知られ、中でも牡丹の季節には境内を埋め尽くす豪奢な牡丹と初瀬山の中腹に建つ本堂まで続く登廊は大勢の参拝者の足を運ばせる。
牡丹がつとに有名だが、桜の季節もまた素晴らしい。初瀬山の斜面、本堂、五重塔と一面薄紅色に染めて花吹雪を舞わせている。
近鉄大阪線長谷寺駅から長谷寺までは徒歩15分。
そのちょうど中間ぐらい、昼間であれば参拝客が大勢行き来する通りの両側に向かい合って老舗旅館の井谷屋が建つ。
駅から長谷寺へ行く途中であれば、向かって右が昔ながらの建築を残す本館であり、現在は満室の時ぐらいしか泊ることはできない。
現在主に使われているのは向かって左手の別館。この別館から連絡通路を通じて温泉浴室のある別館山荘棟へも繋がっている。
ちょうど初瀬山の桜が満開になる4月、井谷屋に泊った。
長谷寺観光を重視して、そんなに温泉に期待はしていなかったのだが、良い意味でそれは裏切られた。
井谷屋の大浴場は千人風呂と名付けられている。
千人風呂と呼ぶほどには広くは無いが十分な大きさの長方形の浴槽があり、無色透明の湯が満たされている。
眺望は良いはずだが、今は夜なので広い窓の外は暗くて何も見えない。
一番印象的だったのは壁の一部にはめ込まれた牡丹のステンドグラスだった。壁のタイル柄などと併せてレトロ感を出している。
お湯はかなり熱い。
もともとの源泉温度は冷鉱泉で低いのだから、相当沸かしているようだ。
すべすべする感じはあるがそれほど強くはなく、色も臭いも無いことからともすれば温泉らしさが希薄に思えるお湯かもしれない。
浴槽の中央にはしばしば鳴門の渦潮みたいなものが現れて、強力にお湯を吸い込んでいる。
循環やむなしというところか・・・そう思っていた。
浴槽の角の処に三段になった湯口があった。形は、そう、鍾乳洞で見かける水の溜まった皿状のあれだ。湯口周辺は温泉成分で白くコーティングされ、そのコーティングがところどころ割れて剥がれている。
ふと何の気なしにその湯口に溜まったお湯をすくったところ、これは全然熱くない。むしろ適温。
たぶんここから源泉もしくはそれに近いお湯を入れて、あの鳴門の渦潮から吸い込んで強く加熱し、お湯の中の注入口からまた入れているのだろう。
この湯口のお湯、とってもすべすべ。これはいい。ここのお湯、貰い。
浴室に他に入浴客がいないのをいいことに、ずっと湯口のお湯をすくっては掛けていた。
しばらくお湯を掛けていると肌もすべすべになり、少し突っ張る感じとべたつきも出てきた。自分の肌もコーティングされてきた感じだ。
翌朝は男湯と女湯が入れ替えになっていたので、もう一つのお風呂に入ることができた。
先客は誰もいない。
浴室は昨日とは入れ替わり、ステンドグラスは牡丹ではなく針葉樹の図柄だった。
湯口もパムッカレのような花びら型ともいえる曲線が段々になっているのではなく、直線を使ったシンプルな長方形の段々だった。
つまりモチーフが少し男性的。その他の作りはほぼ同じ。
広い浴槽は長方形で、壁のタイルは昭和初期っぽいレトロ柄。外側の壁はサンルーム風に斜めになってほぼガラス張り。その窓からさんさんと朝日が注がれている。
昨夜は暗くて見えなかったが、窓の外は参道周辺の民家の屋根ばかり。ちょうどそれを見下ろす位置にこの浴室のある井谷屋の別館が建っているようだ。
泉質のせいで床は滑りやすくなっている。気を付けないと。
昨夜は随分と沸かして激熱だったお湯は、今朝はほぼ適温になっていた。
誰も入っていないせいか、浴槽のお湯も鮮度が高く泡もつく。
少し入った後は、今朝も湯口に張り付いてずっとお湯を掛けていた。やっぱり湯口のお湯が一番すべすべする。
但し窓から入る日差しが直接当たるので、湯口近くにいると日に焼けそうだ。
寝ぼけ眼で入るいつもの朝風呂と違って朝食後の湯あみだったがすっきりしてやる気が湧いてきた。
ところで井谷屋に泊った夜、長谷寺の朝の勤行見学を勧められた。
花の季節で観光客で混雑している中での拝観を覚悟していたが、早朝の勤行見学であればほとんど人がいない中でゆっくりと長谷寺を見て回ることができる。
実際に見学させていただきたいそう感動的だったので、これを読んでいる方にもお勧めしたい。
勤行見学後は一般拝観時間前の長谷寺を自由に見学して、井谷屋に戻り、朝食を頂き、朝風呂を堪能した。
井谷屋での一泊は有意義な滞在となった。