子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★★★★ 泉質★★★★☆ 着替えに便利なおむつ替え用の台有り。
- 設備★★★★☆ 雰囲気★★★★★ 桜の季節は特に絶景
子連れ家族のための温泉ポイント
桜の名所として名高い吉野山は雌伏の地。
時は室町。後にも先にも一度きり、朝廷が二つに分裂し、南北朝に分かれたその時代の、後醍醐天皇の怨念とでもいうべき凄まじいパワーを秘めた場所。
また修験道の信者たちが一本、また一本と手づから桜の木を植え、いつしか山全体が春には花をつけるようになったそんな土地。
吉野で花見風呂をするならば、とても良い温泉がある。
昼から雨の天気予報で山全体に霞がかかっているような日だった。
金峯山寺、吉水神社と行くうちにパラパラと雨が降り出して、通りすがりに見つけたこの宿に雨宿りも兼ねて寄らせてもらった。
宝の家は「ほうのや」と読む。
中に入るとこの宿は外観で損をしているのではないかと思うほどに中は立派だった。
決して外観が悪いというわけではないのだが、それでもギャップを感じるほどに中は高級感あふれていた。
入浴料が高額である分、どうぞお使いくださいと渡された手ぬぐいサイズのタオルはこれまた高級そうだった。
色が白ではなく生成り、毛足が長くしっかりしている。
浴室は階段を降りたところで、男女別にそれぞれ内風呂の美彩貴宝の湯と露天風呂の阿吽の湯がある。
中千本から引いているというこの温泉の由来は後醍醐天皇まで遡るようで、当時失意の天皇に温泉への入浴をお勧めしたとされている。
内湯の美彩貴宝の湯は長方形の浴槽で底は細かなタイル張り。
残念ながらこれは温泉ではなく、マイクロバブルを使っていることが特徴らしいのだが、はっきり言ってどこがどうマイクロバブルなのかわからなかった。もしかしたら装置が止まっていたのかも。
窓際にシャンプーバーがあり、好みのシャンプーやリンスが選べるようになっているのは嬉しい。
温泉は露天風呂のみ。
しかしこの露天風呂、一見の価値あり。それはもう、内湯から続くドアを開けて外に出た途端、思わず感嘆の声を上げてしまうくらい
もうね、一目千本はむしろこの眺めのためにあるような言葉。
今日見てきたどの景色より絶景。
今はまだ下千本しか開花していないので山は微かに染まっているだけだが、これが上中下、全山桜で山が着飾ったら、これはもう何物にも代え難い。
小ぶりながら雰囲気の良い岩風呂は開けた側に張り出すように作られた舞台にあり遮るものも無い。
ちょうど山に向かって右手の御簾の奥には今まさに満開の桜が一本あり、溜息の出るような造形を作りだしている。
はらはらと風に飛ばされて、一枚の花弁が湯面に落ちた。
その波紋すらも絵のようだ。
但し温泉についてはいまいち感が否めない。
熱すぎずぬるすぎずのお湯はわずかに黄色っぽく、浴槽の縁の岩はお湯の高さまで赤茶色に染まっている。湯口のお湯が跳ねるあたりはつぶつぶの析出物ができていてそうしたところに温泉らしさはあるにはあるが、プールのような塩素の臭いは強く、お湯そのものにもあまり特徴や鮮度が感じられない。
まあこの露天風呂はお湯はどうあれ価値は高い。
なんたって眺めが極上だから。
いつの間にか雨が止んだようだ。
岩の上のカタツムリがゆっくりと角を出して動き始めた。