子連れ家族のための温泉ポイント
- 湯温★★★★☆ 泉質★★★★☆ ぬるめで入りやすい
- 設備★★☆☆☆ 雰囲気★★★★★ 基本的に貸切利用なのは助かるが、子連れで行く雰囲気ではない
子連れ家族のための温泉ポイント
箱根湯本駅から徒歩7分。
どこか退廃的なムードの中に風刺の効いたおかしみが漂う作風の画家 平賀敬が晩年を過ごした館が、氏の作品を展示する美術館として箱根湯本の熊野神社近く、通りから一本入った閑静な立地にひっそりと建っている。
箱根に美術館は多けれど、こちらは知る人ぞ知るという感じだ。
しかも何故か美術館でありながら温泉に入れる。
さらにこの温泉がちょっとすごい。
どうすごいかと言うと、源泉は福住湧泉(湯本第3号源泉)を使用していて、既に湯本の第1号、第2号は枯れてしまって存在しないと言うから、平賀敬美術館の温泉は箱根湯本最古の古湯と言ってよいのだ。
紅葉も雨にけぶる11月の午前中に平賀敬美術館を訪ねた。
国の登録有形文化財に指定されているこちらの建物は、元々は老舗旅館 萬翠楼福住の別荘として明治時代に建てられたという瓦屋根平屋建てで、井上馨、犬養毅、近衛文麿といった著名人が滞在したこともある。
玄関を入ると衝立の奥に左右に伸びる板張りの廊下は、晩秋の寒々とした冷気を足元から漂わせていた。
館内のあちらこちらに視線を感じるような目力ある平賀敬氏の作品が飾られ、廊下の左手奥に浴室がある。
一人で入るなら広く、三人で入るには狭い、そのくらい小ぢんまりとしている。
古びてはいるが、その作りの一つ一つは商売向けに作られた多くの温泉のそれとはまったく違い、館の主と客人のためだけに整えられた、そんな風に感じる浴室だ。
案内してくれた故平賀敬氏の奥さまは、窓枠にものものしい鉄格子がはまっているが、これは入浴中の要人の暗殺防止のためであると説明して下さった。
天井を見れば浴室の左右にも別の浴室があったことがうかがえるが、館の裏から引く温泉のパイプが析出物で細くなり出が悪くなったため、今はそれらを束ねて一本にして、現在使用している真ん中の浴室にのみ注いでいるそうだ。
湯船に源泉を注ぐパイプが興醒めなのは、そこだけ後からつけたからなんですよと奥さまは苦笑された。
ちなみに左右にあった浴室は、それぞれ侍従などのためのもので、今残された浴室が主客のためのものだったそうだ。
身を沈めるとざばっと湯が溢れる。
溢れた湯は桶を躍らせ陶器の枕にひたひたと寄せ、ここで天井を見ながら溢れる湯で寝湯して時間を過ごせればまさに至福。
無色透明で少しぬるめの湯はやわやわと纏いつく感じで思わず何度も両手ですくってしまう。
加温も加水もむろん循環もしていない、そのまま引いて流す昔ながらのシンプルな造り。
雨の日の薄暗い浴室が眠気を誘いそうだ。
これは素晴らしいお風呂。素晴らしいお湯。
なかなか出たくない。何度ももう出なくてはと浴槽から身を起こしては、またもうちょっと、あともうちょっとと戻ってしまう、そんな魅力のある温泉だった。
湯上りは奥さまの案内で座敷へ移動。
ほっこりくつろぎながらお茶とお菓子をいただいた。
実はこちらの温泉、単純な日帰り温泉としての営業はできないのだそうだ。現状においてはあくまでも美術館の来訪者への入浴提供という形で無いといけないのだそうだ。
だからどうしても美術館入館料600円+温泉入浴料1,100円=1,700円と、相場高めの箱根においてさえかなり標準より高額な入浴料となってしまう。
そのかわり平賀敬作品の鑑賞はもちろんのこと、極上の湯浴みの後に庭を眺めながらお茶をいただいて、時間が止まったようなこの館でひととき過ごすこためならば、決して高すぎはしないかもしれない。
お気に入りのこの温泉について、後日再訪してより詳しい記事をトラベルjpたびねすに寄稿しましたので、宜しかったらそちらもご覧ください(この頁の写真の一部は再訪時に改めて撮影したものです)。
たびねす記事 温泉に入れる美術館・箱根「平賀敬美術館」の時を止める世界観