子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★★★☆ 泉質★★★★☆ お湯は適温、泉質は滑りやすいので注意
- 設備★★★★★ 雰囲気★★★★☆ 日帰りでも予約無しで貸切家族風呂が使えるのが良い
子連れ家族のための温泉ポイント
吹上温泉湖畔の宿みどり荘は、大正から昭和初期に掛けての歌人 斉藤茂吉がいたく気に入り、神々の宿と称した宿であり、また二度映画化された「清作の妻」で知られる作家 吉田絃二郎ゆかりの宿でもある。
同時代の文人である二人がそれぞれみどり荘に滞在して詠んだ短歌や俳句もいくつかあり、露天風呂の周りなどにも歌を記した木製の短冊が飾られている。
またこの宿は太平洋戦争時、多くの神風特攻隊員を見送った宿でもあった。
隊員たちは最後の夜をここで過ごし、旅立っていった。
湖畔に残る観音堂には隊員たちの遺品の一部が供養のために納められている。
みどり荘に着いたのは午後4時40分。
まだ空は明るい。
駐車場の周囲には紅葉した葉が落ちてかさかさと乾いた音を立てていて、12月も終盤なのに鹿児島の冬は遅いなぁと思った。
石畳の坂の上に日本秘湯を守る会の提灯が下がった瓦屋根の門がある。
武家屋敷とか、小ぢんまりとしたお寺の入り口のようだ。
荷物を持ってその門を潜ると、左手に受付棟。奥に藤棚が見えた。
受付棟の中はストーブがついていて温かかった。
中に男性客が一人いたが、どうやら日帰りのよう。
ちょっと料理研究家の平野レミに雰囲気の似た女将さんがすぐに出てきて受付をしてくれた。
全室離れと言うけれど、離れに泊るなんて初めてかも。
どんな感じなのかドキドキする。
みどり荘の温泉では複数の源泉を使用している。
男女別の内湯や家族風呂は、近くの公衆浴場でも使われている管理源泉に独自源泉(露天風呂の源泉とは別)をミックスしたもの。黒い湯の花はちょっと珍しいんですよと女将さんが言う。
そして露天風呂は敷地内の庭から湧く自家源泉のみ使用。
大浴場のお湯もいいけれど、独自源泉の露天風呂はぜひ入ってくださいねと強く勧められた。
離れの部屋は渡り廊下の右側に並んでいた。
ひとつひとつ離れて独立した部屋を想像していたが、四つの客室が渡り廊下で一列につながっているのでそういう意味では普通の旅館の部屋とあまり違わなうように見える。
しかしドアを開けるとまず玄関があるところが違う。
そして部屋の窓からはまるでプライベートな別荘であるかのように湖が見えた。
やっぱりこの宿はいい。
部屋に入ってそう感じた。ここを最終日の宿泊先に選んだのは正解だ。
その気持ちはこの後お風呂に入ったり食事をしたりして益々強くなることになる。
さて、暗くなる前に露天風呂に行って来よう。
みどり荘のお風呂は湖畔に点在している。
まず私たちのいる離れからさらに先へ進むと朝食会場などに使われる食事処、それから女湯の大浴場、男湯の大浴場、その二つの大浴場の隣にそれぞれ小ぢんまりとした家族湯が付いている。
男女別大浴場の先が男湯露天風呂。
それから少し湖畔を歩いて、赤い柵で囲われた観音堂があり、その先が女湯露天風呂。
落ち葉を踏みしめて池を半周し、辿り着いた女湯露天風呂は一人だけ先客がいた。
男湯は池の真横に露天風呂があるようだが、女湯は竹垣や植木で池は見えない。
洗練された雰囲気の漂う長方形の石の浴槽。
お湯は無色透明。すっきりと綺麗。
掛け湯槽もあるが熱く感じたので、湯船からお湯を汲んで掛けた。
湯船も少し熱めだが、入るのに難儀するほどではなく、入ってしまえばそれほど熱くは感じなかった。さらにそんなにのぼせないタイプのお湯。
浴槽の縁の岩の上には石の蛙が寝そべっている。結構かわいい。
カエルのお腹辺りに「虫さん葉っぱさん湯から出してあげてネ」と書かれた木の札が置いてあって、その横に虫取り網が一つ立てかけてある。
やわらかいゆでたまご臭。きしつきは弱いものがあるが、むしろするすると滑る感じが強い。
そして長い時間入っていると「するする」がだんだんパワーアップしてくる。
湯口に柄杓が置いてあったので、飲むとゆで卵のにおいが鼻からも入ってくるが味としては苦味が強い。薬っぽいほどではなく、春の山菜ぐらい。
しばらく入っているとだんだん手足がちりちりとしてきた。
二人で入っていると、先客の連れの女性が来て、それからさっき大浴場ですれ違った二人組も来て、たぶん今夜の女性宿泊客全員が夕方の露天風呂に集ったと思う。
でもみんな地元民じゃないから特に連れ意外に話しかける様子も無く、全員ひたすらお湯に浸かっていた。
ホントに随分長い時間、誰も上がることなく露天風呂で過ごしていた。
そうしている間にゆっくりと辺りは日が陰っていき、元々みどり荘に着いた時から晴れてはいなかったのだが、それでも明るかった空はだんだんと紫を帯びて、湖畔にも灯りが灯りはじめた。
夕食については鹿児島旅行記の方で読んでもらうとして、私は部屋に食べ物のにおいがこもるので、あまり部屋食は好きじゃないんだけど、みどり荘の部屋食はたいそう気に入った。
泊まっているお客様にどんなふうに食事を楽しんでもらおうかと考えた時に、細かいことをひとつひとつ考えて積み上げて実践しているところが良いと思う。
一泊2万円以上する高級旅館では当たり前に行われていても、そんなに良い宿、ほいほいと泊まれないしね。また高い宿なら満足できるというものでも無い。
ここはいいよ。また泊まりたい。
夜はまずは家族風呂に行ってみた。
家族風呂は日帰り入浴を受け付けている間は使用前に受付に電話で空きを確認して、簡易な予約状態にして使うことになっているが、日帰り終了後は宿泊客は自由に鍵を掛けて貸切風呂として使える。
男女各大浴場の隣におまけみたいに付いていて、使われているお湯は大浴場同様、共同源泉+自家源泉。
たぶんこの市から供給される共同源泉が日置市の公衆浴場でも使用されているものと同じなのだろう。
2、3人用の四角い石の浴槽で、池に面している側に嵌め殺しの広い窓が付いているがもう外が暗いので何も見えない。
露天風呂より山で嗅ぐような硫黄系のにおいは強い。味はやはり苦味がある。
大きな違いは肌触り。オイルを引いたようにトロトロで、お湯にとろみを感じるほど。
体感温度は露天風呂同様、熱く感じるが入ればさほどではない。
しかしこちらはすぐにあたたまる感じで、そんなに入りっぱなしではいられない。
湯上りは少し乾いた感じになるが概ねすべすべ。
大浴場も同じだが、カランから出てくるのも水道水ではなく全部源泉だ。
最後は大浴場へ。
この浴室は広い窓の外が池で、男湯はそのまま池が見えるようだが、女湯は窓ガラスに目隠しが貼ってあるのでいまひとつ見づらい。
もちろん今は家族風呂の時同様、真っ暗なので窓の外は関係ないが。
入ったのが夜なので、浴室の灯りがついていてもあまりよくお湯の色までは見えなかった。たぶん無色透明。
ここは珍しい黒い湯の花が特徴だと女将さんが言っていたが、家族風呂でも大浴場でもほとんど湯の花が見つからなかった。
結局浴槽中を桶で探し回って、ようやく小さな羽毛のような黒いものをいくつか捕獲して満足した。
夕方の露天風呂はあんなに混雑していたのに、夜になったらどのお風呂でも誰にも会わなかった。
脱衣所で整理整頓していた仲居さんに会っただけだった。
「おやすみなさい」
にっこり笑ってドアを閉める。
いい夢が見られそう。