子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★★☆☆ 泉質★★★☆☆ 浴槽のお湯はかなり熱い(打たせ湯はぬるめ)、泉質は特に刺激など無し
- 設備★★★☆☆ 雰囲気★★★★☆ 脱衣所のベンチがなんとかベビーベッド代わりに、休憩室は待ち合わせ程度に使える
子連れ家族のための温泉ポイント
長野県から群馬県へ、天然記念物のレンゲツツジ群生で知られる湯の丸高原の地蔵峠を越えて行くと、道々100体の観音像が旅の安全を祈り見守ってくれる。
千手観音有り、馬頭観音有り。
やがて鹿沢スキー場を過ぎて、右手に激しい雪の中、レトロな丸い赤ポストを玄関脇に置いた紅葉館は建っていた。
がらがらと戸を開けると、薄暗い帳場。
立ち寄り料金は一人500円。
高くはないけれど、子供料金の設定は無く、全員500円。
古びた廊下の先に雲井乃湯と呼ばれる男女別の浴室があり、寒そうな脱衣所には脱衣棚と木の椅子、そしてありがたいことに石油ファンヒーターが置いてある。
トイレは脱衣所にはなく、廊下の更に先。
後で見たら、トイレ周辺だけ改築したてのようで、木造の高級旅館のような様相だった。
建て付けの悪い浴室の引き戸を開けると、湯気の中、なんともいい味を出した四角い浴槽が薄暗い中に湯をたたえていた。
浴槽の縁は木なのだが、温泉成分で赤茶色に染まり、ところどころ析出物がこびりついている。
男湯との境には、燃えさかる火を中心に、男女とおぼしき人物が踊っている神話的なレリーフがかかっている。
隅に源泉の違う打たせ湯があり、そこから絶えず落ちる湯の音が辺りに響きわたっている。
ざぶざぶとお湯を掛けると、なかなか熱い。
そろそろと中に入り、湯口に近づくと、これまた四万温泉の御夢想乃湯(旧施設)の湯口にも負けないような立派な析出物の固まりができていた。しかも飛沫の当たる周辺の縁もすごいことになっていて、とげとげした固まりは珊瑚か何かのようで、触るとぽろりと欠けたりした。
浴室中に漂う新鮮な金属臭。
お湯の色は青緑がかった磨りガラスのよう。
赤茶色の湯花が沢山。
味は金属をなめたような味とじゅわっとくる感じに、後味に渋みとえぐみ。
栃木の老松温泉を思い出すような果実の老いた味わいがある。
肌触りがまた面白くて、最初つるつるとして、すぐににきしきしときて、上がるとべたべたとなり、乾くとすべすべして、最後に粉をはたいたようにさらさらとなる。
肌触り五変化温泉だ。
最後のさらさら感は、日本三美人の湯、川中温泉にも引けを取らない。
湯上がりは湯の濃さを実感するかのように、肌がぴりぴりちりちりと突っ張る。
ふいに浴室に響きわたっていた湯の音が消えたと思ったら、子供が打たせ湯を使っていた。
さて、紅葉館は日本秘湯を守る会の宿で、雪山賛歌発祥の宿としても知られている。
雪山賛歌は昭和3年、京大山岳部の学生たちが吹雪で足止めをくらったとき、退屈しのぎにアメリカ民謡「いとしのクレメンタイン」の曲に山男の歌詞をつけたもので、メンバーの一人、西堀栄三郎は後に第一次南極越冬隊隊長となった。
私たちが紅葉館を訪れたときも春とは思えない雪の日だったが、外に出てみるともうさきほどまでの雪は止んでいた。
宿の道向かいに上州鹿沢温泉火国と書かれた古い本の写しが飾られており、見ると当時鹿沢には21もの施設があってたいそう栄えていた様子が分かる。
これらはみな、大正七年の火災で焼失してしまったようで、今この地に残るのは紅葉館一軒のみだ。
お風呂に入っている僅かの間に降った雪の量をあらわすかのように、車の周りに付いた私たちの足跡はほとんど消えかけて見えなくなっていた。