子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★☆☆☆ 泉質★☆☆☆☆ お湯はかなり熱めの上、混浴と内湯は深い、あまり子供向けとは言い難い
- 設備★☆☆☆☆ 雰囲気★★★★☆ 脱衣所にはベビーベッドなど無い
子連れ家族のための温泉ポイント
「全然歩けなかったのよ、嘘みたいでしょ」
と、常連の女性は言った。
本当に嘘みたいだ。しゃきしゃきと歩いているじゃないですか。
「歩けないと考えることもどんどんネガティブになってしまってね、やっぱり自分で動いて自分で何でもできるのが一番だよ」
彼女を癒したのは万座温泉豊国館。
既に万座温泉ホテルの日進館の取り壊し・リニューアルが決まった今、昔ながらの鄙びた風情を残すこの雰囲気だけでも万座では貴重だが、何より自炊設備が整っているということだけでも長期湯治を考える人には有り難いはずだ。
冬季はスキー客が多いので二食付きのみ受けているが、雪のないシーズンは食事抜きで泊まれる。
私は友人と急な思いつきから泊まっている万座温泉ホテルから歩いて豊国館までやってきた。
途中、電話で立ち寄り入浴できるか問い合わせたところ、無愛想な口振りで観光案内所の坂を下ったところにある赤い屋根の建物だと教えてくれた。
観光案内所を出て下っていくと、すぐに大きな建物が見えてきた。赤い屋根・・・というよりは気持ち赤っぽい屋根だが、あれだろうか。意外と綺麗な大型ホテルだな・・・と思ったら、それは豊国館ではなく、プリンスホテル系列の万座高原ホテルだった。
もっと道を下ると、万座高原ホテルの奥に予想していたよりもっと慎ましい建物が見えた。なまじ一瞬万座高原ホテルが豊国館かと思ってしまった後なので、益々わびしい佇まいに見える。
表玄関のある方へ回ると、こぢんまりとした入り口ながら、やはり三連休なか日の午後だけあって出入りする人の数が多い。
玄関も万座温泉ホテルや万座プリンスホテルを見てきたばかりだと、古くてごちゃごちゃとして良く言えばアットホームな雰囲気に思える。
奥まったところに帳場があって、たぶん電話に出たと思われるおじいさんが番をしていた。
どうやら電話で愛想がなかったのは深い意味があったわけではなく単にいつもそういう口振りなのだと思われた。
廊下も古びてぎしぎしと鳴りそうだ。
昔ながらの湯治場という響きがぴったり来る。
女湯と書かれた戸を開け、狭い脱衣所でぬいで浴室に入ると内湯に二人、露天風呂に一人、先客がいらした。
「あらあなた達、運がいいわね。ついさっきまでは随分混んでいたのよ。ちょうど空いてきたところ」
そう教えてくれた方もすぐに上がってしまわれた。
露天風呂に出てみた。
露天風呂にいた方もすぐに上がってしまった。ほとんど貸切だ。
お湯は綺麗な緑白濁だった。
ここで使われているのは独自源泉の苦湯。万座温泉ホテルにも苦湯というお湯があるがあれとは別物だ。
意外に見晴らしが良く、低い竹垣の向こうに山の斜面が見えている。
そしてその斜面の一角からはもくもくと雲のように豪快な湯煙が上がっている。
私たちは入りながら、ふと、確か豊国館は有名な混浴のお風呂が無かったっけ?と顔を見合わせた。
内湯にも入ってみた。
木造でなかなか雰囲気の良い浴室だ。
内湯の浴槽は深い。濁っているので判りにくいがかなり深い。知らないで入ると、「おっと」と体勢を崩してしまいそうだ。
何となくここは露天風呂より内湯の方が濃く感じた。
内湯にいらした先客のアドバイスに従い、私たちは女湯脱衣所できっちりとバスタオルを巻いて、そのまま廊下を通り混浴に移動した。
ドア越しにも混浴脱衣所に大勢の男性がいる気配がして入ることを躊躇したが、ここはせっかく来たのだし、脱衣所はバスタオル巻で通過できるのだからと思い切って入ることにした。
おやまあ、なんともラッキーなことに、脱衣所は大混雑だったがみんな一斉に上がったところで、広い混浴露天風呂は無人で私たちを待っていた。
豊国館の混浴露天風呂は濃厚だった。
他に形容しようが無い。とにかく濃いような気がする。
他のお風呂と比較しても濁りも強いし、硫黄らしいゆで卵とマッチを擦ったときのような臭いと、酸っぱそうな臭いも強い。
湯口の所にプラスチックのコップがあった。
五色温泉でも思ったけど、どうしてこうマンガのキャラクターみたいなのが入ったチープなコップを置きたがるんだろうな。
木の湯口から注がれる源泉はかなり熱かったが、思ったほど苦くない。酸味が強くレモネードみたい。
お風呂は女湯露天風呂と比較して長方形で横に長く、竹垣の無い分見晴らしも良い。
ススキの揺れる向こうに山肌からわき上がる湯煙。
何だかえらく満足感のある入浴だった。
2009年 脱衣所盗撮事件(リンクは当時の報道 魚拓)の現場になってしまったことは嘆かわしいことですが、こうした事件は従業員や経営側におかしな人が混じっていれば、豊国館に限らずどこの温泉施設でも有り得る事件だと思っています。