そのまま地蔵堂の右の石段を昇っていくと奥の院に続いているようだが、夫は時間が掛かりそうだからと途中で諦めて降りてきた。
辺りは石像、お堂、墓石のようなものがぽつりぽつりと点在するだけで、あとは無間地獄はかくあらんと言わんばかりの荒れた景観。
不気味な穴の開いた火山性の岩がごつごつと積み重なって溶け合っていたり、噴気で黄色く染まっていたりする。
この白茶けた世界で色を持っているのはところどころに刺さり、からからと乾いた軽い音を立てて回っているプラスチックの風車だけだ。
風車の音が耳について離れない。
お地蔵様は子供を守る仏様だからか、風車の他に誰かが供えたドロップの缶や散らばったクレヨンなどもあってつらい気持ちになる。
また風が吹いてきて、止まっていた風車が一斉に回り出した。
やがて順路はゆるやかな下りになり、正面に大きな宇曽利湖が見えてきた。
今歩いてきた岩だらけの丘が地獄とすると、宇曽利湖畔は極楽浄土を表すそうだ。
空は重苦しい灰色で、湖畔の地面は漂白されたように真っ白で、宇曽利湖の色も現実離れしていた。
青と緑と白を混ぜたような。強い酸性の湖水を湛えたこの湖は、晴れていれば南の海のような色に見えそうだ。
今日は光が足りなくて、それでも岸に近い辺りは翡翠のような色だった。