お腹がいっぱいになったら、あまり長居はしなかった。
夜風に誘われて辺りを散歩する。
下北物語のある通りの斜め向かいには田名部神社というお社があり、そのことから一帯を神社横丁と称すらしい。
「こういうとこ好きなんだよなぁ」と夫が呟き、ふらふらと誘われるように狭い路地に入っていく。
二人並んで歩けば道幅いっぱいのような怪しげな小路。通り自体に斜めに屋根が付いていて、ぽつりぽつりと等間隔に飲み屋の看板が下がっている。
通りの一番先まで行くと外に抜けられるようになっていて、そのまま左に折れると、今の通りと平行に今度は屋根の無い通り沿いにやはりバーやスナックが肩を寄せ合って軒を連ねていた。
やっぱり通りを歩いている人は誰もいない。
でも飲み屋のひとつひとつの看板に灯りは入り、薄くドアの開いている店をのぞけばちゃんとお客もいるようだ。
妙に静けさと侘しさと怪しさのないまぜになった古めかしい横町。
昭和初期というか、戦後すぐのような雰囲気。もちろん私は生まれていないから、イメージだけど。
ところどころで「地場産品応援の店」と書かれた緑提灯が下がっているのが夫は気になるようだ。
提灯の下がった一軒を見て、入ってみる?と私の方を見た。
いいよ。面白そう。