3.ロザリオブランカ下さい
子供たちを車から降ろして葡萄園の中に連れていった。
田中園ではここでは甲斐路と巨峰を栽培していて、既に巨峰の季節は終わりとかで甲斐路だけが生っている。
レナはすぐにむしゃむしゃと食べ始めたが、カナはなかなか手が出ない。
「どうしたの?」
「食べたくない」
「葡萄、好きなのに」
「・・・外では食べたくない」
「何で?」
「・・・虫が来るから」
蜘蛛が怖いという。
蜘蛛なんかいないってば。
どうしても出てきたら退治するからとなだめると、おずおずと食べはじめ、ひとつ食べるとあまりの美味しさに止まらなくなってしまったようだった。
籠の中には赤紫の甲斐路と濃紫の巨峰、それに黄緑色のロザリオブランカが入っていた。
このロザリオブランカが大好評。
皮をむかなくても食べられる大粒の葡萄なのだが、上品ですっきりした甘さに一番人気。
そこで受付の奥さんに、ここで生っている甲斐路ではなくロザリオブランカの狩りはできないかと尋ねてみたところ、ロザリオブランカは少し離れた農園で作っているので狩りは難しいけど、今朝収穫したばかりのここに並んでいる分は買うことができると教えてもらった。
狩りをすることを前提に試食させてもらっているのに、狩りをせずに購入だけでもOKかしら?
「もちろんそれでも構いませんよ」
安心してまたばくばく試食を続ける私に呆れて、パパは、そんなに食べて良いの? さっき店頭に来たお客さんは一粒、二粒ぐらいしか食べなかったぞ、試食ってそういうものじゃないのか? と言った。
「えっ、駄目なの? 試食はご自由にって言っていたよ」
「あのね・・・とにかくさっさと買ってきなさい」
「はーい」
財布を手に奥さんの処へ戻る。
ロザリオブランカの大きめの房を三つほど選んでいると、パパが三つとも別々の品種にしたら?と言ってきた。
ええ? でもこれが美味しいんだよ。
結局三つのうちひとつだけ巨峰にしてみた。
全部でちょうど2キロ、2,400円だった。
さらに気前の良い奥さんは、今取ってきたばかりだからこれも試食してみて、と新しい一房を差し出した。
「ワインなんかに使う葡萄で甲州っていうのよ」
知ってる。甲州種のワインは刺身に合うんだ。
「試食って・・・一粒ですよね」
「ああ、房ごとあげるわよ」
ほ、ほんとうですかい? 他の試食用もあんなに沢山食べちゃったのに。