2.
緑の葉に反射して窓から差し込む朝の光がまぶしい。
温泉旅館の朝風呂は最高。
お風呂には先客がいらした。
埼玉から来ている方だった。
本当はもっと泊まりたかったけど、一泊しか取れなかったのだと嘆いていた。
我が家は既に今夜以降の宿泊は押さえて、もともと一泊の予定で安曇野山荘旅館せきえいを予約したので、ちょうど良い日程に入ることができたのだなとホッとした。
「これからどちらへ行かれるの?」
「今夜からは奥飛騨のキャンプ場で二泊して、そのあと氷見の民宿へ移動するんです」
「あらまあ、お子さん連れて奥飛騨はまだまだこの時期寒いわよ」
確かに寒いかも。
子供以上に寒がりの私は、完全な防寒着とさらにホカロンをいくつも持ってきていた。
たぶん準備は万端・・・
昨日も書いたが、安曇野山荘旅館せきえいのお湯の蛇口からは中房温泉の源泉が出る。
これを飲んでみると、ほんのりと硫黄の臭い。
ぎとぎととする舌ざわり。
しかしこの硫黄の匂いがお風呂の中では既に消えてしまっているのが残念だなぁなんてひとりごちる朝。
さあ、トレーラーで乗鞍方面で夜明かししたはずのyuko_nekoさんや、夜に東京を発ってこちらへ向かっているえんぴつさんたちと合流するために、そろそろ出発しなくては。
チェックアウトの際に記入してくださいと出された宿帳は、単なるルーズリーフを閉じたファイル。
ここらしいと言えばそうかも。
親切な女将さんは、中房から温泉を引いているこの辺りの宿でも、掛け流しにしているのはうちぐらいですと胸を張っておっしゃった。
確かにとても良い湯で・・・。
宿泊料や立地を考えても、また泊まりたいと思える宿だった。
「今、猫がいたよ」
荷物を車に載せている間も、カナとレナは玄関にふらりと顔を出した猫を追いかけて行ってしまった。
庭には大人しそうな犬もいたらしい。
カエルもレナが捕まえて見せてくれた。
緑に囲まれた安曇野山荘旅館せきえいとはこれでお別れ。
今朝の予定は昨日から決めていた。
せきえいの目と鼻の先、細い小道を抜けて通りに出たらもうそこが入口、安曇野アートヒルズでガラス細工体験。
時間調整と、せっかく安曇野に来たのだからというわけで、私たちはアートヒルズの駐車場に車を入れた。
空は晴れ渡り、雲ひとつない。
時間は朝の10時少し前。
瀟洒な美術館といった雰囲気の安曇野アートヒルズに足を一歩踏み入れると、近未来的な通路が待っていた。
通路を抜けるとガラス製品のショップがある。
美術館というよりもショップとし体験施設がメインのようだ。
体験施設は階段を降りた地階にあった。
学校単位で訪問してもキャパシティーが足りると思われる立派な体験施設で、GW中はとんぼ玉、フュージング箸置き制作、サンドブラスト思い出絵皿制作は中止となっていたが、それ以外の吹きガラス、フュージングのトレーや壁掛け一輪挿し制作、万華鏡制作、サンドブラストによるペーパーウエイトやグラス制作、ガラスの印鑑作りなどは体験できるようだった。
色とりどりの見本を見て、どれにしようか惑う。
この選ぶのもまた楽しみの一つなのに、何故かアートヒルズ行きを最初に提案したはずのパパはイライラと「早く決めて」と言い出した。
結局、デザインの豊富さや完成後の使い勝手、さらには値段との兼ね合いなどから私たちはフュージングによるトレー制作を選択した。カナとレナと私の分。パパは最初からやらないつもりのようだ。
料金は一人2,000円。
一週間後に取りに来るか郵送してもらう。送料はGW特典ということで、全国一律315円となっていた。
トレーのサイズは縦横10センチほどの正方形のガラス板に、色とりどりのガラスのかけらを載せて、炉で軽く融解させるもの。
完成後は中央が凹み、載せたかけらがほどよく溶けてくっつく。
溶けた後をイメージしてかけらを載せていくのがポイント。
完成したら絵のように立てて飾っても良いし、小皿のように実用品にすることもできそう。
最初に手を傷つけないように白い手袋をはめて、好みの色のガラス板を選ぶ。
20色ほどあっただろうか。無色透明なものから、色のついた半透明なもの、マットなもの、マーブル模様の入っているものなど。
マーブル模様も綺麗だったが、見本を見比べるうちにやはりガラスらしく透明感のあるものがいいと思い、私はごく淡い緑色のガラスプレートを選んだ。
たまたまカナも色味の違うもっとはっきりした透明緑を、レナはマットでマーブル模様の入った緑を選んでいた。
緑三兄弟だ。
揃えたわけではない。たまたまだ。
さて、そのガラスプレートに載せていくかけら-チップの小さいものは、色ごとに小瓶に入っている。
できるだけ一色ずつ出して、出しすぎたら戻せるようにしてくださいねと係りのお姉さんがアドバイスしてくれる。混ざってしまったり、どの瓶から出したかわからなくなってしまった場合は戻さないでいいそうだ。
チップにはガラスプレートを割って作られた比較的大きなものと、先ほどの小瓶に入った小さなものと、もうひとつ引き伸ばして作られたとおぼしい細い棒状のものがある。
これらを好きなようにガラスプレートに載せていく。
炉に入れるまでずれないように、ボンドで仮止めしながら。
私は子供たちは手伝わないつもりだった。
上手くいかなければいかないなりに、自分の作品を作ればいいと思っていたから。
でも案の定、甘えん坊の二女レナはすぐに「手伝って〜」と泣きついてきた。
自分でやりなさい自分でと突き放すと、今度はパパに泣きつく。
まあいいけど。
カナはもくもくと自分の作業を続けている。
やがてパパがまた「早くしようよ」と急かし出した。
キャンプ場に行く前に買い出しを済ませたいし、そもそもキャンプ場にできるだけ早く行きたいらしい。
私はせっかくここでガラス工芸体験を始めたなら、納得いくまで作業を続けたいし。
意見はどうしても折り合わず、ちょっと険悪になりかけたが、結局パパは一人で買い出しに行き、その間、私たちは作業を続けられることになった。
カナとレナの作品は最近はまっているうぇぶぐるみのジュエルペットがテーマ。
うぇぶぐるみというのは、実際のぬいぐるみを買うとパスワードが同梱されていて、インターネットでそのパスワードを使うと、ネット上でバーチャルなペットと遊べるというもの。イメージ的にはポストペットとかどうぶつの森とかと同種の遊びだと思う。ちょっと小さい子向けではあるけれど。
私のは花を散らしてみた。
溶けた後、イメージ通りに仕上がるかな?
安曇野って言うと・・・こう、町や畑の景色の背後にずーんと白い雪を載せた山々がそびえたっているイメージ。
あと、道祖神。
まだまだ続く・・・