海とビーチと
*子連れ沖縄旅行記*
9.そうさ妊婦だって沖縄に来たい、私だってそうだった
午後の海。
風が少し強い。
子どもたちは空気を入れて膨らませたイルカに「ピー」と名前をつけて遊んでいる。
二人が浮き輪を使っているので、私は100円ショップのなんちゃってライフジャケットを浮き具にしてシュノーケルしている。
もちろん子どもサイズだからジャケットとしては使えない。カナとレナの分、ふたつあるので、それぞれを腕に通してアームリングのように使うのだ。
これってちょうどいい。
浮き輪だと水の抵抗が大きくて泳いでも進まないし、腕も使えないからちっとも自由にならない。
この即席アームリングなら、両腕が自由に使えて楽々だ。
でもその姿で泳ぐ妻を見てパパは一言、
「・・・かっこわるい」
がんばって探したけど、やっぱり去年のクマノミは見つからない。
そのかわり中くらいのサイズのフグを見つけた。
フグじゃなくてハリセンボンか何かかな。
とにかく上から見ると魚って体が薄いから紙みたいに見えるけど、この魚は四角く太っている。ヒレだけを細かく動かして、岩影から出たり入ったり。
空気が膨らますイルカには「ピー」という名前を付けた
岸に戻るとパパが今度は隣のレジャーシートのファミリーと話していた。
お父さんとお母さん、それからレナより背の高い娘が一人。
「でもね、レナより下なんだって。まだ幼稚園だって言うけど大きいよね」
レナは人一倍ちっちゃいからね。
「魚、見えるんですか?」と、そのお父さん。
「もう5メートルも行けば見られますよ。なんならクラゲ除けの日焼け止め、お貸ししますよ」と、うちのパパ。
聞けば一週間沖縄に泊まっていて、今日の飛行機で帰るとのこと。
「思いっきり台風に当たっちゃいましてね、最終日の今日が一番天気がいいみたいです。これから滞在する人が羨ましいなぁ」
本部半島より北の誰もいないようなビーチで遊んだこととか、幻の豚アグーを食べたこととかいろいろ教えてもらった。
「土曜日に海洋博公園サマーフェスティバルに行ったんですよ。いつもはそんなに盛り上がらないんだけど今年は30周年記念と言うことで花火とか凄かったですよ」
そのお祭りは私たちもちょっと気になっていたのだが、なにぶん出発日を翌日曜日に設定しちゃったので諦めたのだ。
「沖縄良いですよね」
「ホント沖縄良いですよねぇ」
お父さんはちょっと後込みする幼稚園の娘の手を引いて、海の中へと入っていった。
日陰のシートの上にはTシャツ姿のお母さんが残された。
「いいなぁみんな、海に入れて。私も入りたいなぁ」
「入らないんですか?」
「私、妊婦なんですよ。プールはいいけど海はちょっと感染症とか怖くて・・・」
「あっ、私も家族で初めて沖縄に来たとき、下の娘を妊娠中だったんですよ」
「海に入りました?」
「うーんどうだったかな。プールには入ったけど、海は足しか入れなかったかな」
「赤ちゃん連れて沖縄旅行って来られると思います?」
「大変でしょうねぇ・・・ビーチとか直射日光が強いし・・・あっ、でも飛行機代はかからないかも」
「そうですよねぇ。来年又来られるかな。赤ちゃんと一緒に」
来られるといいですね。
うん、四人に増えた家族で沖縄旅行。
お母さんはビーサンをぺたぺたとならして波打ち際に行き、「海に入りたーい」と両手を広げた。