16.サーターアンダギーと涙
さて、私たちの泊まる名護のマンション、ウィンベル沖縄名護コーラルシーは、別に宿泊者専用の貸しマンションというわけではない。
名護の更に先、車で20分ほどの距離にあるゴルフ&マリンリゾート・ホテルベルビューがそのうち一室(もしくは数室)を貸し出しているだけで、残りの部屋は分譲されて普通に住んでいる人たちがいる。
チェックイン手続きは本部町にあるホテルベルビューで行う。
マンションのある名護から往復するだけで40分以上かかるから、パパは自分一人で行くことを提案した。
「その間、子どもたちは21世紀の森公園で遊ばせておけばいいよ。ビーチで貝を拾うとか」
「レナはまだ寝ているけど、起こすの?」
「その方がいいだろう」
しかしレナはいつも寝起きが悪い。
このときも滅茶苦茶だった。
ぐずぐず言って車を降りようとしない。
「お腹空いたならこれ食べる?」
座席に置いてあったさっきのサーターアンダギー詰め合わせの袋を渡そうとすると、今度はカナが慌てた。
「最後の一個が食べきれなくて食べかけなの」
最悪のパターンだった。
レナが起きるまでにカナが全部食べたなら証拠が残らないし、一つでも残っていればそれをレナに食べさせようと思っていたのだが、残っていたのは一口かじった跡のあるサーターアンダギー一個だった。
「食べかけは嫌だー」とレナが絶叫する。
とにかくどうにか泣き続けるレナを下ろして、パパには一人、ホテルベルビューへ向かってもらうことにした。