8.クマノミに会えるビーチ
全員で探しに行っても効率が悪いので、パパが一人、さっきクマノミを目撃したあたりを探し、見つけたら手で合図をすると言うことになった。
既に時間が残り少ない。
もうあがるつもりでいたので、まさかまた今から全員で海に入るとは思いもしなかった。
そうは言っても、ここで何もアクションを起こさずにいたらカナもレナも納得しないだろう。
残されたわずかな時間でニモが見つかる可能性は低いが、やれるだけやってみよう。
空模様も急に怪しくなってきた。
まるで子供たちの精神状態を反映しているかのようだ。
パパからはなかなか合図が来ない。
必死で探しているのは判るけど、潜ったり顔を上げたり、全然成果無しのようだ。
「ラブカス、まだ見つからないのかな」とカナ。
子供たちにはまだ探しているのがニモだとは言っていない。
何だか判らないまでも、何かびっくりするような魚がいるらしいと薄々感じているだけだ。
三人で波打ち際でやきもきと待っていたが、ついに痺れを切らしてしまった。
どうせならみんなで探そう。
「カナ、レナ、パパからの合図はないけど行ってみよう」
決心して泳ぎ出す。
今まではシュノーケルの時に自分も必ず浮き輪をつけていたが、今回はそのまま泳ぎだした。
グリーンフラッシュビーチはそれほど深くないし、浮き輪はない方が速く泳げる。
さっきパパが「この辺りで見た」と言っていた場所からはかなり離れてしまった。
パパは何度もそこで潜ってみたが見つからないらしい。
移動しながらいろんなところをのぞいてみた。
本当に見つかるかな。
もう雨も降ってきそう・・・。
何度目かに海中を覗き込んだとき、誰か他の人の足にぶつかりそうになって、あわてて顔を上げたとき、オレンジ色の魚が視界を横切った。
「ニモ!!」
ガボガボ。
シュノーケルをつけたまま叫んだから凄い声になってしまった。
「ニモ!! いた!! ニモ!!」
子供たちに教える。
「この下!!
クマノミ、見える?」
パパとママとでシュノーケルセットを使っていたので、子供たちは二人とも水泳用ゴーグルだった。
カナもレナも果敢に水の中をのぞく。
なかなか見つからないらしい。
「あっちへ泳いでいった。おいで」
パパもやってきた。
「ねっ、いただろう」
「いたいた」
やっと見つけた。
もう見失わない。
オレンジ色のひらひらする姿を追っていくと、あれまあ、ちっぽけなイソギンチャクが海底に張り付いていて、そのそばに大小三匹のクマノミが泳いでいた。
「見えた、見えた、ニモだ」と嬉しそうにレナ。
ママのシュノーケルとマスクを外し、レナに渡してやる。
レナは水泳用ゴーグルを外すとシュノーケルセットを装着した。
「ニモだニモだ」
パパが、手を出すと寄ってくるよ、と教えると、レナは手をひらひらさせてみた。
寄って来るって・・・それって絶対威嚇攻撃されているだけなんじゃないかと思うんだけど。
突然空が真っ暗になって、ばらばらと大粒の雨が降ってきた。
「見えないよ! 雨が降ってきたからもう帰らなくちゃならないよ」
カナは一人、追いつめられたように泣きべそをかいている。
「海の中にいてもうぬれているんだから雨が降ってきたって平気だよ」
「大丈夫、このすぐ下にニモがいるから海の中を見てご覧」
パパとママとで何とか落ち着かせる。
「・・・判った」
「見えた!!
クマノミだ!! かわいい」