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那須の紅葉旅

11.秋風の立つ里の風景



 露天風呂も岩風呂には大勢の入浴客がいたが、一段高くなったところに三つ据え付けてあった小さめのお風呂は誰も使っていなかった。
 まずは右端の六角風呂。
 これは女湯だけにあるもので、隣に二つ並んだ瓶風呂より浅く広い。
 やはりお湯はぬるめなので、たらんと力を抜いて入るのにちょうど良い。
 カルキ臭がするのだけが興醒めだが、それでもここのお湯らしいあの海苔の佃煮臭は強く感じられる。
 正面に思川。
 なんというのだろう、町の景色とも山の景色とも違う、里の景色とでも言うべき、夕暮れとススキの似合うノスタルジックな風景だ。
 秋の風が立つ中に、赤トンボが乱舞している。

 内湯の桧風呂と岩の露天風呂もカルキ臭がきつかったので、結局源泉浴槽に戻ってしまった。
 桧風呂など外側に掛け流されている分も多いのだが、浴槽の中央底面でも強力に吸引しているので、誰も入っていないときに見ると、真ん中に鳴門の渦潮みたいなものができていて可笑しい。
 子供たちは先に上がらせて、しばらくのんびり入っていた。
 湯上がりの肌の臭いは何故かパクチー(英名でコリアンダー、エスニック料理によく入っているハーブ)そっくりだった。


もう少し目線が高いと思川がよく見える。

ススキと赤トンボの似合うちょっとノスタルジックな風景だ。


 上がってみたら、パパと子供たちは中庭の足湯にいた。
 足湯は加熱せずに流しているのか、冷たくはないもののほとんど水のようだった。
 カナもレナもズボンをまくりあげてばしゃばしゃと歩き回っている。
 休憩室は混雑していたが中庭には誰もいなかったので好きにさせた。
 煙草を吸い終えたパパが戻ってきて、今日はこれで帰ろうと言う。
 「今日はまだ全然楽しいことしてなーい」とカナ。
 何言ってるのよ、あんなに稲刈りに夢中になってたの誰だい。
 「・・・帰りたくない」
 その気持ちは判らないでもないがね。


思川の中庭にある足湯 まだ帰りたくないよーだ




2-12.心残りは次への約束へ続く


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