3.
「眠い・・・眠いよ、もうダメ。寝ていい?」
耐えがたいと言った声でレナが炬燵に潜ろうとする。
「まあまあ、もうちょっと頑張れ」とパパ。
まだ年は開けていない。
大晦日の夜。
時刻は11時を回っている。
日頃は10時にはもう布団の中だ。
姉のカナは意外と夜更かしも早起きも昔から強いのだが、レナは弱い。
何とか寝させないようにしているのは、年明けと同時に初もうでに行こうと考えていたからだ。
最寄りの松芋神社の場所はうろ覚えだが、確か0時前後に外に出れば、ぞろぞろと道行く人がいるはずだ。
そう教えてくれたのは若井さんだ。
毎年貸し民家みらいに泊っては、こうして初詣してきた。
「そろそろいいだろう」
パパが腰を上げたのはあと10分ほどで新年が明けるという頃だった。
みんなコートに帽子に手袋。
完全防備。
外に出るとあれほど激しく降り続いていた雪は、はらはらと風も無く落ちてくる程度になっていた。
足あとひとつ無い坂道を降りる。
足の下の雪がふかふかとしている。
通りの向こうの十字路に人影がある。
そうだ、思い出した。
あそこから狭い階段を上ると神社があるのだ。
階段は人一人がやっと通れる幅だけ雪をかいてあった。
ぞろぞろと昇る人たち、また参拝を終えて降りてくる人たちが互いに譲り合って何とかすれ違う。
集落中の人が今この時刻にここに集まっているようだ。
おめでとうございますと小声で挨拶を交わしながら、前の人の背中を見つつ私たちも昇り始めた。
階段を昇りきって朱塗りの鳥居を潜る。
小さな社。
賽銭箱の奥に参拝客の長靴が並んでいる。
ガラーン、ガラーンと鈴を鳴らし手を合わせてお祈りする。
ちょうど時計は0時を回り、2011年の年が明けた。
三日目 2011年1月元旦(土) |
昨夜が遅かったので朝は眠い。
なかなか布団から出られない。
腕だけ伸ばし、暖房のスイッチを入れる。
もうパパとカナは階下へ降りている。二階の寝室には私とレナだけが残されていた。
初詣の帰りは大変だった。
行きはよいよい帰りは・・・レナがもうぐだぐたになっていた。
もう一歩も歩けないとしゃがみ込むことしばしば。
パパもカナも先に行ってしまい、私が何とかなだめすかし、手を引きながら歩かせた。
「足が冷たいよ」
後で判ったが、可愛そうにレナのスノーシューズのかかとはぱっくりと割れていた。
今カナが使っている量販店の安物では無く、フェニックスの凝ったデザインのブーツなのだが、保存が悪かったようで傷んでしまっていた。
そこから容赦なく雪が入ってきて、不快感MAX状態らしい。
さらに眠気もピークに達していて、よろよろと道の右に行ったかと思えば、ふらふらと左に寄っていく。
振り返るとしんしんと雪は降り続き、遠くにちらちらと神社の灯りが見える。
ずぼずぼと雪に埋まる長靴を引き抜き引き抜き前に進む。
目の前に見えているみらい1号館までいつまでたっても辿りつかないんじゃないかと思った。
まだまだ続く・・・