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がんばれ新潟*四万温泉と雪国古民家の旅
> 1-12上の湯の静寂
◇◆がんばれ新潟◆◇
四万温泉と雪国古民家の旅
12.上の湯の静寂
方向音痴の私は時々地図を開きながら落合通りを出てメインストリートを下り始めた。
萩橋を渡り、洒落た柏屋カフェの前を通り、カーブして月見橋まで来た。
月見橋まで来ると、すっかり温泉街を抜けてしまったようで建物の影はなく、時々溶けた雪の上を音をたてて車が行き来するのみ。
橋を渡って付き当たりを右に曲がると、今度は山口地区の温泉街に入る。
山口地区に入り左手に三木屋旅館が見つかったらすぐその隣。細い通りを入ると割に小ぢんまりとした三角屋根の
上の湯
があった。
上段左から・・・洒落た柏屋カフェ、四万温泉の通り、猫三匹おんなじポーズで、共同浴場上の湯の外観、そして女湯の入口
元旦の四万温泉だから、それなりに観光客で共同浴場も混んでいるかもと覚悟していたのだが、意外にも、というか有難いことに、上の湯の女湯は無人だった。
無料の共同浴場らしく善意の箱が備え付けられた狭い脱衣所と、やはり小ぢんまりとした浴室は防犯も兼ねたガラス張りの引き戸で仕切られている。
天井は湯気抜きの開いた木組み、壁はタイル、浴槽は縁が木で中はタイルでできていた。
浴槽は二つあり、その中央に四万の透明で熱い湯を流し込む四角い箱がある。
お風呂が二つあるならば、どちらかが熱くてどちらかがぬるいのかと入り比べてみたが、どちらもちょうど同じくらいの良い湯加減で、肩まで沈むと思わず力の抜けるような溜息が出てしまう。
石膏のような臭い。美術室に足を踏み入れた時のような。
肌ざわりきしきしとして、何か体中の悪いものが肌を通して溶け出していくようなそんな感触。
これが四万温泉なのだと思う。
上の湯は無口で、私が四万温泉に対して持っていたイメージをそのまま具現化させたかのような、そんなお湯だった。
私が上の湯を出ると、ちょうど入れ違いにやってきた女性がいた。
私を見て、「あのう、他の共同浴場に行くにはどうしたらいいのかご存知ですか?」と聞いてきた。
私は持っていた地図を見せて、「ここから一番近いのは山口露天風呂ですけど、ここは本当に混浴のお風呂と脱衣所だけの設備ですよ」と教えてあげた。
「そこは今、見てきたところなんです」
どうもこの女性は、混浴の山口露天風呂に臆してこちらに来たもよう。
「そうすると・・・後はこの道をずっと行って、15分ぐらいで河原の湯というところがあります。また、もっと歩いて全部で30分ぐらいらしいんですけど、一番奥の日向見に御夢想の湯というのがあります。私も今からそこに行こうと思っているんですが」
「そんなに遠いんですか」
女性は絶句していた。
そんなに遠いかなぁ。
まあいいか。
1-13山口から日向見への道
へ続く
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