「ママがスキーを初めて滑ったのは20才ぐらいの時だよ。だからもう大人になってから。お友達と一緒にバスでスキー場に行って、そのお友達が滑り方を教えてくれた。でも大人になってからだともうあまり上手くならないんだよね。ママも子供の頃からスキーに行かれれば良かったんだけど・・・。
カナは何でママはスクールに入らないのに自分はスクールに入らなきゃいけないのって思ってるでしょ。ママはもう大人だからスクールに入ってもそんなに上手くならないんだよ。カナはまだこれからどんどん上手くなるチャンスがある。だから今スクールで教えてもらうとそれだけぐんぐん上手になるんだよ。だって最初は全然滑れなかったけど、ちょっとスクールで教わったらもうどんなところでも行かれるようになったでしょ」
「・・・うん」
それからカナは言った。
「前にレナと一緒に習ったあそこの先生ならいい」
赤倉スキー場のスクールか。確かにあそこは良かった。
「じゃあまたあのスキー場に行こうか。そうしたらスクールに入る?」
「うん」
カナとリフトに乗るときは語りモードでそれはそれでいいのだが、レナとリフトに乗るのは怖い。
まずレナはストックがないので並ばせるのに一苦労。場合によっては私のストックに捕まらせて引っ張り上げてやらなくてはならない。
さらにリフトに座る瞬間も緊張。
何しろ標準的な小学一年生よりずっと背の低い彼女はリフトの座席の高さに腰の位置が合わない。かといって私の力では自分の板をはいたまま彼女を抱き上げて座らせるのも無理だ。
結局リフト係りのおじさんに少し手伝ってもらうことになる。
そしてリフトがぐんぐん昇り始めてからも怖い。
小さい彼女が椅子から滑り落ちやしないかと、乗っている間中冷や冷や。
だってリフトの背もたれもレナの身長に全然あっていないんだもの。
ちょっとバランスを崩したらするっと落ちそうだよ。
そんなことを考えただけで背筋がぞわぞわしてきた。
「しっかりリフトに捕まっていて」
そうは言ったものの、レナが手を離す度に思わず声を上げてしまう。
とても耐えられない。
次回からレナはパパと一緒に乗って。
「やだ、ママと乗りたい」
「やだ、勘弁して」
お昼はスキーセンターの中で。
ごく小さなセンターだけどこのスキー場の規模なら座れないというほどではない。
新潟のスキー場らしくメニューにおにぎりがある。
でも
ナステビュウのおにぎりと違って具が入っている。
梅干しと昆布。
レナは梅干しがすっぱいと顔をしかめた。
滑っては降りて滑っては降りて・・・子どもたちにつきあってひたすら一本しかないリフトで上がっては同じコースを滑り続けていると、やがて山の稜線に夕日が掛かった。
ほとんど休み無しに滑ってきた。
もう足ががたがた。
午後はよく晴れた空も、また何となく薄曇りになってきた。
ゲレンデから見る向かいの山や家々に夕日があたっている。
そろそろあがることにしよう。
時間は4時を回っていた。