さて、旅行記はベルン到着からスタートいたします。まだ2日目は始まったばかり。
ベルンは一言でいうなら手品師のような街だった。まるで魔法にかけられたような不思議な印象がある。
地下を通って駅から表に出ると、まず時計塔が見える。帰国してから「女王陛下の007」を見返してみたら、弁護士のところに忍び込むベルンのシーンで、時間経過を表すためにあの時計が繰り返し登場していたではないか。
あの時計塔の向こうに、メインストリートがあるのだ。
メインストリートはアーケードと聞いて、想像していたのは、ミラノのヴィットリオ・エマヌエーレ2世みたいな、東京ディズニーランドの入口みたいな、通り全体に屋根がついているものだった。しかし、ベルンのアーケードは、それとは違って、巨人が大勢、前へならえをして、道の両サイドにぎっしりと立っているようなそんなイメージだった。屋根がついているのは、サイドの歩道だけで、車道は青天井なのである。歩道を歩く人は、巨人の股下を次々とくぐっていくことになる。巨人の胴体にあたるそれは、屋根というよりお隣同士でぴったりとくっついた建物の一部である。
アーケードをしばらく歩いていると、なんだか違和感がある。はて、そろそろ距離的には旧市街にさしかかっているのでは?
アーケードにはたくさんのお店が並んでいる。ブランド品屋や時計屋さんが目立つ。どのお店も近代的な作りだ。いったいどこに古式悄然とした旧市街があるのだろう??
足を止める。
とりあえず、あの車道のど真ん中に突っ立っているカラフルな像の前で写真を撮ることにしよう。そう家族に声をかけて、車道に出たとたん…。
わー、すっご〜い!
ベルンの街は、トランプのカードをくるりとひっくり返したみたいに、がらりと見せる貌を変えたのだ。
な、なんだなぁんだ、この街は、こうして車道に立って眺めるものだったんだ。
巨人の掌ならぬ足の下から這い出してみると、まるでタイムスリップしたようだった。中世そのままのような街並みが一直線に伸びていて、両側から各州の州旗がずらりと突き出し、風になびいている。正面には大きなおもちゃみたいな時計台があって、その下を歩道がくぐっている。なんかトランプの王国に紛れ込んだアリスみたいだぞ〜。