9月4日(水)
目を覚ますと一番に窓に駆け寄り、お天気をチェックするのが習慣になりつつある。ラウターブルンネンのホテル、シルバーホーンの庭には、小さな流れがあって絶えず水の音がするから、いつも雨が降っているのかと思ってぎくりとするのだが、雨は、一昨日を最後に帰国するまで、もう私たちを煩わせることはないのであった。
窓の外は相変わらず一面の雲だった。でもがっかりすることはない。雲の上にすばらしい青空が広がっていることがあることは昨日実感したし、なんといっても今日は空が明るい。昨日より雲が薄いのだ。お天気は徐々に回復傾向にあるようだ。
朝食の前にテレビをチェック。昨日見つけたリアルタイム展望台情報は今日も雲の上の青空を映し出している。今日はシルトホルンに登る予定だ。ここも夕方の日差しの方がベストとガイドブックには書いてあるが、昨日の体験でも朝の方が晴れる確率が高いことはわかっている。朝食を食べたらすぐに出発することにしよう。
シルバーホーンは増改築を繰り返したらしく、最上階の一番奥まった部屋に滞在している私たちが入り口そばのダイニングルームに行くのはなかなか大変だ。階段を降りて通路を抜けてまた階段を降りなければならない。
ダイニングには一番乗りだった。朝御飯の準備はすんでいるが、誰もいない。チャンスだ。
再びせっせと階段を上ってカメラを取りに行く。
誰かいるのに記念写真を撮るのはマナー違反だし気が引けるが、誰もいないとなればこっちのものだ。このダイニングの雰囲気と朝食の場面を、こっそりと思い出に頂いていく。
朝食はセルフサービスだ。私たちは旅行中4つ星から星無しまでスイス国内で5軒のホテルに泊まったが、ありがたいことに全てセルフサービスで、好きなものを好きなだけ食べることができた。まずパンを選ぶ。丸いパンと大きくて好きなだけ自分で切って食べるパンがある。大きなパンは木のまな板の上に乗せられ、手で押さえられるようにナプキンが上にかかっていて、脇にナイフが置いてある。
パンは、行きのスイスエアの中で食べた丸い黒いパンがとても口に合わなかったので、ついつい黒っぽいパンは敬遠してしまう。あの黒パンは、見た目の割にずっしりと重量があってなんだか酸っぱかった。食べたときに、ハイジが食べていた黒パンはこれかしらと思った。白パンを食べて感動して、おばあさんのために黴が生えるまで抱えていた気持ちもわかるような気がした。でももちろん違うかもしれない。
次にジャムをとる。自家製なのか大きな器に入っていて、好きなだけよそるようになっている。このときはまだ蜂蜜にははまっていなかった。
シリアルも好きなのだ。欧州に宿泊するといろんな種類のシリアルがよく半透明の四角い箱がつながった容器に入れてある。欲張りなので全種類を少しずつ取る。ミルクもたっぷりとかける。
サラダも豊富だ。野菜だけではなくフルーツもある。大好きな洋ナシのコンポートがあったのでついつい多めによそってしまった。小豆色をした日本の煮豆のようなものもあって母はそれが気に入ったようだ。
ヨーグルトも忘れてはいけない。白とピンクとあったので両方よそった。トッピングにジャムを少し乗せてみた。
こうしている間にちらほらと他のお客さんも階段を降りてきた。若い人はほとんどいない。みんなにこやかに挨拶してくれる。母も昨日のハイキング以来慣れたもので、「モーニン」と挨拶を返している。
宿のお姉さんがやってきて、紅茶かコーヒーか聞いていく。昨日の黒縁めがねのお姉さんとは違う人だ。若い。
朝食は美味しい。実は海外旅行中は朝御飯が一番好きだ。あっさりして好きなものばかりで幸せな気分になる。でもご飯とお味噌汁派の人にはきっと厳しいのだろう。母も平日の朝食はパンなので不自由はなかったようだ。
ところで、パンが並んでいる横に、バッジがたくさんおいてあった。丸くて裏に服に留めるピンが付いている。一筆書きのような笑っている顔が描いてあって、その下に「アイガー・メンヒ・ユングフラウ」と書いてある。
「昨日はなかったよね」と私。
「きっとパン屋さんが配っているんだよ」とダンナ。
よく見ると人物の両耳がクロワッサンの形だ。なんだかとってもうれしくなった私たちは、めいめいそれを上着やディパックに付けて、出発することにした。
外に出てみてびっくりした。空が白と青の縞模様なのだ。雲は全面を覆っているが、きっとあの青いところは雲が薄いのだ。青空が透けて見えているのに違いない。さあ、きっとシルトホルンはいい天気だぞ。
せめてケーブルカーに乗るところまでは行くかなと思ったのですが、今回は「おいしいぞラウターブルンネン」で終わってしまいました。次回はミューレンへ。