10.ココナッツとおじさん
私はすぐに桟橋を潜ってやってきた不審な人物のことも忘れてしまった。
森の中を歩くのはとても気持ちが良くて、ビクトンヒルほどではないにしても時々綺麗な蝶が横切るし、頭上からは鳥の声が聞こえてくる。
たわわに実るパパイヤの木も見つけた。
ところどころ歩きにくい場所は木道が通されている。
この森もやはり花の姿がほとんど無い。緑一色の古い森だ。
歩き始めて5分ぐらいしただろうか。
ふいに後ろから足音が近づいてきた。
ざっざっざっざっ・・・。
とたんに思い出した。
あの人だ。さっきまでコースの入り口で刃物を振り下ろしていた人だ。
ど、どうしよう。
ビクトンヒルやヒンチンブルック島で女性が一人でウォーキングしていたからって、自分にもできると思ったのが間違いだったのかもしれない。
やっぱりパパに一緒に歩いてもらうべきだったか。
こんなところで大声を上げたところで誰一人気づかない。
オーストラリアで行方不明とか殺人事件とかそんな見出しが私の頭の中をぐるぐる回り始めた。