8.たとえ雨が降っても
八日目 5月5日(木)
レナが朝、目を覚ますと、姉のカナが「面白いものを見せてあげる」と言った。
それはプラスチックのケースに閉じこめられた小さなヤモリだった。
昨夜、クロコダイル・スポッティングのツアーが終わったとき、レナはもうすっかり眠っていたのでそのまま部屋に運ばれた。
カナは起きていて、ママと一緒に天井でうろうろしていたヤモリを捕まえた。
すぐに逃がしてあげても良かったのだが、カナが「レナに見せたい」と言うので朝まで飼っておくことにしたのだった。
「可愛いねぇ」
「絵を描いてから逃がしてあげようよ」
二人はヤモリの絵を描いて、それからケースの蓋をあけてあげた。
小さなヤモリはするするとケースから出て、部屋の隅へ逃げていった。
朝ごはんの後、二人はバルコニーに出てみてびっくり。
「ねえ、どうしてこんなにぬれているの?」
実は昨夜、雨が降ったのだった。
子供たちが寝てしまった後、いきなり激しい音がして、バケツをひっくり返したような雨が降ってきた。
慌ててあちこちの窓を閉めて回った。
大人も寝る頃には雨音も静かになったが、天候はここに到着した快晴の日から徐々に下り坂のようだ。明日は一日雨だったらどうしようと少し心配になった。
朝には雨はやんでいた。
ただ、雲は多い。
少なくとも、ダンク島に行こうと決意できるほど青空は見えていない。
そのかわり、ちょっと嬉しいものも見つけた。
バルコニーのハイビスカスが咲いたのだ。
ウォンガリンガに到着したその日から、どうしてこのバルコニーには花が咲いていないのだろうといぶかしく思っていた。
ここから見える両側の部屋のバルコニーには紫やピンクの花がいくつも爛漫と咲いているのに。
バルコニーの角にはちゃんと植物の鉢があるのだが、葉が茂るばかりで花はない。
それが今朝、不意に大輪の真っ赤なハイビスカスを咲かせたのだ。
ああ、これはハイビスカスの鉢だったんだ。
昨日までは知らなかったよ。
朝にも少しシャワーがあったが、やがて雲が切れて、やにわに暑い日差しが差し込んだ。
空を見上げるといつの間にか目にしみる青空。
ミッションビーチの天候は気まぐれで情熱的。
早速子供たちは外へ飛び出し、椰子の木陰のブランコを揺らした。
ビーチへ出てみると、大きな黒雲は北の空に横たわっていたが、海上は晴れていた。
こんなことならダンク島へ行けば良かったと少し後悔。
滞在は今日を入れてあと三日。
この後も晴れる保証はどこにもない。
・・・まあいいか。
こうして海を眺めて過ごすのも悪くない。
パパは昨日のカフェ・ココナッツで見かけたシェルのモビール風鈴作りに必要な椰子の実を探している。
予定のない朝の時間はゆるやかに流れている。
それからプールサイドの管理棟に寄った。
いろいろ聞きたいこと、申し込みたいものがあったので。
今日の担当は姉御肌のロラリーだった。
「今日は何のご用?」
昨日、共同管理人のウェンディにお勧めアクティビティをいろいろ教えてもらっていた。
「ジョンストンリバー・クロコダイルファームは?」
「行ってきたよ」
「じゃあ、
パロネラパークは?」
「一昨年行ったことがあるんだ」
「エンジョイした?」
「うーん・・・」と肩をすくめるパパの横から
「もちろんエンジョイしたわよ」と私。
パロネラパークはパパにとっては蚊に刺されたばかりで良い思い出がないみたいだけど、私は満足した。
「あとは・・・これは?」と最後にウェンディが取り出したのは、Treat yourself
or a loved one today.と書かれた洒落たちらしだった。
パパは一目見るなり
「トゥーエクスペンシブ!!」
パパは高すぎるとけんもほろろだったが、私はたのむつもりでいた。
少し前から日本でもオーストラリアのスパは大人気だ。
ケアンズ周辺でも、パームコーブのアンサナや、ディンツリーのシルキーオークスロッジあたりは特に評判が良い。
ミッションビーチにも何かしらそういった施設があるのではないかと思っていた。
これなんか良さそうじゃない。
だから今日、ロラリーにお願いしようと思って管理棟に来たのだった。
「このちらし」
「うん、マッサージね」
コースは30分、45分、60分、90分、2時間と5種類ある。
ロラリーは「60分の全身コースがお勧めよ」と言った。
「60分でお願い」
あまりの素早さにパパが目を丸くした。
そんなに吃驚しないでよ。
昨日の夜から実は60分コースにしようと心に決めてたんだから。
それからもうひとつ、今度は質問。
パパがカードウェルからミッションビーチまでの情報が掲載されている無料冊子で、地元の青空マーケット情報を見つけた。
ミッションビーチにはミッションビーチ・モンスターマーケットと、ミッションビーチ・マーケットの二種類があり、前者はイースターから11月までの月最後の日曜日に、後者は通年、第一土曜日と第三日曜日に開かれる。
私たちが滞在する最終日、明後日がちょうど第一土曜日に当たるため、開催場所を教えてもらおうと思ったのだ。
ロラリーはふんふんと冊子を見た後、Marks Parkならここね、と地図にマーキングしてくれた。
ん? マークス公園?
そっちはモンスターマーケットの会場じゃなかったっけ。
もう一度聞こうとした所へ他のお客さんがやってきた。
私たちの隣の棟に泊まってる老紳士だ。
「お先にどうぞ」
ロラリーと老紳士が話し込んでいる間、棚に並んだラックのパンフレットなど物色してみる。
ミッションビーチ近隣のアクティビティに混じって、
ハートレーズ・クロコダイルアドベンチャーズや
ディンツリーとケープトリビュレーションのパンフレットなどもある。
ここからだとハートレーズに行くよりジョンストンリバーに行った方がずっと近いし、ケープトリビュレーションはいくら何でもあまりに距離がありすぎるんじゃなかろうか。まさか日帰りツアーなんじゃないだろうな・・・。
また、棚の上にこれまで泊まった客がコメントを残したゲストブックがあり、ぱらぱら見ただけでも年末に一組、去年のゴールデンウィークに一組、日本人の名前が記されていた。
ようやく老紳士の用事が済んだようなので、もう一度ロラリーに場所を確認してみる。
「ここって・・・」
「ああ、間違えちゃったわ。モンスターじゃない方はこっちだったわね」
早とちりだった。
それからロラリーは例のマッサージ屋に電話をしてくれて
「ええそう、今日なの。えっ、無理? じゃ、いつならいい?」
そしてこちらを振り返って、「今日はやっていないんですって。いつがいいかしら」と聞いた。
パパは「明後日の2時では?」と答えた。
「オーケー、明後日の2時ね」
ミッションビーチマーケットが開くのが明後日の土曜日だから、これは動かせない。
そしてこの日の午後にマッサージを入れた。
すると一日まるまる自由日として使えるのは明日のみ。
だから、その明日にはダンク島を入れることにしよう。
明日は晴れても降っても泣いても笑ってもダンク島だ。
これまであえて滞在中の予定はきっちり定めず、その日その日で空模様を見て行動してきた。
なんとなくミッションビーチでは、予定に縛られたくない気分だった。
だけど残すところあと二日半まで来て、ついに全部の予定をきっちり詰めることになった。
少し寂しい気がする。
部屋に戻るとき、ロラリーは子供たちにジグソーパズルを貸してくれた。
今日の空模様が不安定だから、雨が降っても楽しく遊べるようにと。
バービーとプーさんのパズルで、6箱もあった。
部屋に戻って、お腹が空いたなと思いフルーツを切っていると、ふいにパパが「タリーへ行くぞ」と言った。
「パパイヤ、まっぷたつに切っちゃったのに・・・」
「帰ってきてから食べれば」
タリーはミッションビーチから一番近い町だ。
ウォンガリングビーチからだとおよそ20キロ弱。イニスフェイルに行くよりかなり近い。
タリーで一番有名なものといえば、ホワイトウォーター・ラフティング。すなわちゴムボートによる激流下り。
Raging Thunder Adventuresレイジング・サンダーとR 'n' R White Raftingアールンアールの二社が互いにしのぎを削りながら営業していて、実は私たちはその両方を体験したことがある。
一度目は初めてケアンズに来たとき、レイジングサンダーで申し込んだ。
二度目は友人たちとパームコーブに泊まったときで、このときはアールンアールにしてみた。
内容はどっちもまったく同じだ。
ケアンズ(パームコーブ)のホテルからバスで現地まで送迎してくれて、6人程度のグループに分けられ、そこに一人ずつツアーガイドが付く。
そして簡単に漕ぎ方を教わった後、いきなりボートに乗せられあっと言う間に激流へ。
もみくちゃになったり流されたりしながら、時々はわざと振り落とされて水中を漂い、激しく目の回る4時間を過ごした後、解散となる。
途中、森の中でバーベキューランチを食べたり、ところどころの撮影スポットで記念撮影をしてくれるのも、二社とも同じ。
服装は水着の上にTシャツを着たが、当然最後はびしょびしょ。
足下はスポーツサンダルかズックだが、かかとがあるものでないと無理。眼鏡の人はつるにバンドをつけるよう指示される。
レイジングサンダーで参加したときは、最初に「日本人ガイドがいいか、英語のガイドがいいか?」と聞かれ、英語ガイドを希望したところ、カナダ人のガイドがついてくれた。
グループも新婚旅行の私たちの他、オージーのカップルとイギリス人のカップルという組み合わせだった。
実はこのとき、イギリス人のカップルが「パームコーブに泊まっている」と教えてくれたので、次の旅行で宿泊地を決めるときにパームコーブを選んでみた。まあそれももう10年以上昔の話だ。
アールンアールのときは有無を言わさず日本人グループに入れられてしまった。
といっても、こちらが既に4人のグループだったので、そこにもう一組日本人カップルが入っておしまいだ。
ガイドは陽気な関西人だった。
それはそれで楽しかったけど、やっぱり海外に来たら極力海外の人と接しようというモットーで旅をしている私たちには残念に思えたことも多かった。
今回はもちろんラフティングをしにタリーに行くわけではない。
大人でもかなりきついタリー川ラフティングを幼児連れでできるわけがない(ちなみに年齢制限は13歳以上)。
銀行に寄ってトラベラーズチェックからの両替をすることと、酒屋に寄ってパパのためのビールを買い出すことが主な目的。
パパは何は無くともビクトリアビター。
クイーンズランド州でもフォーエックスではなくひたすらVBを飲み続ける。
道は、途中までは昨日クロコダイル・スポッティングに行った時と同じところを通る。
それからひたすら森とバナナ園の続く中を行く。
ハイウェイに出ればすぐにタリーだ。
ハイウェイ沿いには今度はサトウキビ畑が広がり、Sunlanderサンランダーの線路も見える。
サンランダーはケアンズとタウンズビルを結ぶ鉄道だ。
サトウキビあるところに線路有り。
ファーノース・クイーンズランドにおいて、如何にサトウキビ農業と砂糖生産工業が果たしてきた役割が大きいか、改めて考えさせられる。
そしてやんぬるかな。
思った通り、タリーには大きな古びた製糖工場がそびえていた。
鉄道沿いの町は、こうして栄えてきたのだ。
タリーの町は古き良き時代の面影をよく残していた。
イニスフェイルと同じように、アールデコ様式と呼ばれる開拓時代を思わせる独特の装飾が多くの屋根についている。
町の規模はごく小さく、メインストリートを抜けると、もう閑散としている感じだ。
そして何となく肉体労働者が多い。
ラフティングに来る日本人は多いが、タリーの町に来る日本人観光客はほとんどいないと思う。
私たちも初めてだった。
通りでウェストパック銀行を見つけて、まずは両替を済ませた。
ここは手数料を取らなかった。
それからおもちゃ屋を見つけて入る。
日本でも昔からある田舎町のおもちゃ屋さんのような感じで、薄暗く狭い中にごちゃごちゃ玩具が積み上げてある。奥は自転車売場になっている。
カナとレナは人形のドレスを見つけた。
でも・・・これってNinaって書いてあるけど、ニナなんて人形知らないよ。
あなたたちのバービーとディズニープリンセスたちはバービー用の洋服なら着られるけど・・・
「これがいい」
うーん・・・29センチのニナ・ガール用って書いてあるけど何とかなるかな。あとは賭けだ。
カナはピンクのドレスと柄物のドレスのセットを、レナは白いレースのドレスと柄物のドレスのセットを選んだ。
ちなみに後で持ってきた人形たちに着せてみたら、何とか洋服は入ったが、セットの靴はまったくサイズが合わなかった。さらに、つくりがちゃちだったのでほつれてきたり、大きさが合わずホルターネックの首が通せなかったりしたので、日本に帰ってから母が修繕する必要があった。
最後に酒屋へ。
ワインも買いたかったけど、一昨日トロピカルワインをいっぱい買い込んだからなぁ。
ビールだけ買うことにした。
そして荷物を積んで車を出そうとしたら、
「!!」
すぐ前に郵便車両のような車が停まっていて、ぶつかったとこちらを指さしている。
まさか。こんなにスペースがあるのに? とパパが車を降りて見に行った。
助手席からは二人の話している声は聞こえなかったが、相手の男性が笑顔だったので大事に至っていないことがわかった。
パパはすぐ運転席に戻ってきた。
ぶつかったみたいだけど、相手も何もなく、こっちもナンバープレートのところで傷も付かなかったと。
相手の車の後ろに牽引用の鉤が飛び出していて、それがぶつかったようだ。
まさかそんなに低い位置に出っ張ったものがあるとは思いもしなかった。
びっくりしたよ。
タリーの町を出る前に、巨大なブーツを見つけた。
何だろう、あれ・・・と思ったら、裏には巨大なカエルも張り付いていた。
このカエルの張り付いた巨大ブーツは、Golden Gumbootといって、実はタリーの名所の一つだった。
高さは8メートルもあって中から上れるということも後から知った。
午後はまたウォンガリンガのプールで過ごした。
ここ何日かの間に子供たちの遊泳技術は格段に上がったような気がする。
相変わらずフォームは滅茶苦茶だが、カナもレナももう1.8メートルの深さをものともしない。
自由自在に泳いでいた。
今日はお昼を食べ損ねたし、さっき切りかけたパパイヤもあったので、フルーツプラッターを作ることにした。
プールサイドは一応ガラス・陶器厳禁だから、プラスチックのトレイにあるだけフルーツを切って乗せる。
それからプラスチックのコップにトロピカルワインをそそいで、部屋からプールへ降りていった。
荷物を運ぶので外壁に取り付けられた階段を登ったり降りたりしていたら、ドアを開けたお隣さんとぶつかりそうになってしまった。
「ハロー」
「ハワユー?」
お隣さんは中年の女性三人組。
いつも朝からバルコニーでバスローブ姿のまま煙草をぷかぷか吸っている様子がよく見える。テーブルには常にワインの瓶やグラスがおいてあり、昼間は外出して夜遅く戻ってくることが多い。
何だか毎日お気楽な感じがいい。
女三人であんなリゾート生活も楽しかろう。
山盛りのゴージャスなフルーツを見てパパは一言。
「リゾートホテルのプールサイドでこんなの頼むと数十ドル取られるぞ」
なかなかいいでしょ。
あとはこのワインの入っているグラスがプラスチックじゃなくて、ちっちゃな傘の付いているトロピカルカクテルなら完璧だ。
たっぷり遊んで、そろそろ冷えてきたから子供たちをプールから上げよう・・・と思ったら急に雲行きが怪しくなりぱらぱらと雨が降ってきた。
さっきまで青空だったのに、本当に今日の天気は気まぐれだ。
子供たちをお風呂に入れてワンピースに着替えさせる。
今日の夕食は外食しようと思っていた。
ミッションビーチ在住の
きょうこさんから教えてもらったBlarneysか、ウォンガリンガ・アパートメントのウェンディに教えてもらったScotty'sか、
ミミミさんが調べてくれたクラブMission Beach SLSCか。
今日はScotty'sを選んだ。
いつの間にか短パンからワンピースに着替えた私を見て、パパは「いくつ服を持ってきたの!?」と呆れ顔。
Scotty'sは午後4時オープンだが、パパが管理棟に降りてロラリーに確認したところ、4時から開くのはバーのみで、ディナーは6時からとのこと。
すっかり準備を終えてしまったがあと2時間、ぽっかりと空いた時間ができてしまった。
眠気を誘うような雨の音。
子供たちはテーブルで借りてきたジグソーパズルで遊んでいるので、ベランダのブランコを拝借することにした。
海に面したバルコニーと違って、こちらのベランダは屋根が付いている。
ブランコで揺れながら、雨音を子守歌にうとうと・・・。
こんな時間もいいかもしれない。
5時45分を回って、雨はやむどころか益々激しくなっていた。
土砂降りもいいところ。
駐車場までも行けやしない。
どうするよ。
パパが意を決して傘を借りるため管理棟に電話した。
しばらくするとロラリーがゴルフなんかで使うような大きな傘を差して階段を上ってきた。
「これを使って」
「ありがとう」
でも傘、一本しかなくて、ロラリーはどうやって管理棟まで戻るの?
「素敵なディナーをね」
にっこり微笑むとロラリーは、傘無しで階段を下りていった。
あっと言う間にずぶぬれになるロラリーを見送って、
「やっぱりオージーって親切だよね」とパパと私。
Scotty'sはウォンガリンガのあるReid Roadの外れにある。
ウォンガリンガを出て、ミッションビーチ方面に走って、突き当たりの左手だ。
ビーチフロントレストランという名目だが、道を一本隔てているので、海の真ん前という気はあまりしない。
幸いScotty'sに到着したとき、雨は少し小振りになっていた。
今にうちに・・・と思い、急いで店に駆け込む。
思ったよりずっとカジュアルな店構えで、服装に気を遣う必要は無さそうだ。
一階はノースモーキングと書かれている。
入って直ぐ左手にバーのカウンターがあり、奥には大きなスクリーン。衛星放送のミュージッククリップが流されている。
まだ6時になったばかりなので、レストランの座席は空っぽだった。
「何にする?」
「本日の魚料理が気になる。コーラル・トラウトだって。珊瑚礁の鱒? 食べてみたい」
「じゃあそれと、本日の肉料理、それからオイスターも頼もう」
いいの? 生牡蠣苦手なんでしょ?
私は好きだけど。
この間、牡蠣にあたってからすっかり牡蠣に懐疑的なパパのはず。
料理が運ばれてくるまで子供たちを大人しくさせるため、パパはとっておきのものを取り出した。
「いい子にしているって約束できたら、これをあげよう」
「うわぁ」
「うそっ」
パパが取り出したのは、ハム太郎のキャラクター人形。
大人の親指ぐらいの大きさでいろいろな種類がある。カナとレナが今一番気に入っているおもちゃだ。
主人公のハム太郎人形は日本でなくしてしまったので、二人は、リボンちゃん、ラピスちゃん、にじハムくん、プリティ、キューティ、ビューティ、おとめちゃんなどの人形を今日も持ち歩いていた。
パパが買ってきたのは、タイホくんとライオンくんだった。
「絶対いいこにする」
その誓い、忘れないでよ。
カウンターのところで働いている店のお姉さんをしきりと「いかにもオージーらしい顔」と評していたパパは、ふいに、今店に入ってきたファミリーは絶対オージーじゃないぞと言い始めた。
「何で判るの?」
「顔立ちが違う」
振り返ってみたときは、もう一家は席に着いていて後ろ向きになっていたので私には判らなかった。
しかし、その一家の顔は私もその後はっきり見ることができた。
なぜなら、しばらくして一家のパパが小さな娘を連れて私たちのテーブルにやってきたからだった。
「ハーイ」
金髪のくるくる巻き毛の小さな女の子を連れた若いパパは、いきなり私たちのテーブルの横にやってきて話しかけた。
た、確かに、オージーじゃない・・・と思う。
褐色の長い髪をオールバックにして後ろでたばねた若いパパの顔は、鋭く彫りが深く眉が繋がりそうだ。
どこの国の血筋なのかまったく判らなかった。
白人か黒人かも判らない。スパニッシュ?・・・とも違う感じ。
「これはなあに?」
カナたちが遊んでいた人形を指さす。
「ハムスター」
どうもちっちゃい娘が退屈して店に迷惑をかけないように、同じく子供連れだった私たちの方へ遊びに来たらしい。
パパがひとつひとつ指で差しながら名前を教える。
「リボン、ラピス、プリティ、キューティ、ビューティ・・・にじハム・・・にじ、レインボウ」
「レインボウ!!」
国籍不明の若いパパも、自分の娘に繰り返してやる。
「プリティ、キューティ、ビューティ、レインボウ・・・」
そして、「どこから来たの?」
「日本から。あなたは?」
「サウス・アフリカ」
サウス・アフリカー!? それじゃ判らないわけだ。
「どこの泊まってるの?」
「ウォンガリンガ」
「ああ、あそこはいいねぇ」
そしてまさか私たちは、また後で彼らに会うことになるとは、このときはまったく思わなかった。
コーラル・トラウトは白身の魚で癖がなく食べやすかった。
より美味しかったのは本日の肉料理の方で、ポークだった。この辺では牛はいっぱい飼っているが、豚は見かけなかったのでどうかなと思っていたが、これは正解。
デザートまでお腹いっぱい食べた。
食べ終わってパパが、ふと、紙ナフキンで鶴を折れるか?と聞いた。
まかせてよ。
四角い紙なら何でも折るよ。
とはいえ、紙ナフキンは腰が無くてサイズも大きすぎ。かなり折るのは難儀した。
完成したらパパはそれをサウス・アフリカン・ファミリーの所へあげに行った。
彼らは「オリガミ」を知っていたそうだ。
食後、外に出ると雨は上がっていた。
九日目「ダンク島」へ続く・・・