11.情けは人のためならず
再びカンガルーの所に戻って。
さっきのよろよろしていた赤ちゃんカンガルーはもうお母さんの袋に戻ったようだ。
もうお腹の中に収まるには成長しすぎているので、頭も足もしっぽも全部はみ出しているが。
カソワリーにやりすぎて、レナのパンはもう残り少なくなっていた。
まだ沢山残っている姉に向かって「パン、少しちょうだい」と言ったが、カナは自分の分が減るのが嫌で「うん」と言わない。カンガルーの分を取っておかなかった妹が悪いのだと思っている。
レナのパンはすぐに使い切ってしまい、べそをかきはじめた。
そこへ先ほどのウールーヌーラン・サファリのツアーがクロコダイル・フィーディングと鳥小屋の見学を終えてぞろぞろとカンガルーコーナーにやってきた。
「あそこに行って、パンをもらっておいで、一緒に行ってあげるから」と母は言った。
そしてレナの手を引いて、ツアーガイドのお兄さんにパンを分けてもらえないかと交渉する。
後から思えばこの人はファームの係員ではなくウールーヌーラン・ツアーのスペイン人相手のガイドだった。
ラテン系の濃い顔立ちのお兄さんは快くパンを分けてくれた。もしかしたらツアーガイドは、めいめい自分たちで餌のパンを調達して持参するのかもしれない。スーパーなどで売っているパンの袋そのままをぶら下げていたから。
あっと言う間にレナの手は、カンガルーにあげきれないほどのパンでいっぱいになった。
面白くないのはカナだ。
もう自分の手にはパンが残っていない。
妹に分けてあげることをケチったので、逆に今、後悔する羽目に。