16.転落
事件はクルーズ後に起こった。
私たちは夕日の余韻に浸りながら船を降りて、桟橋を歩いていた。
ふとパパが、ウェイブダンサーを見つけた。
去年、
ロウアイルズに行ったときに乗った双胴のクルーズ船だ。
カナも覚えていたらしく、とことこと船に近づき、そしてふいに姿が消えた。
海に落ちたのだ。
桟橋と大型帆船の胴体との間はわずか30~40センチぐらいの隙間があった。
彼女はそれに気づかず、足を踏み外したのだ。
瞬時に時間がローラーで押しつぶされ引き延ばされたように感じた。
カナが
カナが
パパの行動は迅速だった。
桟橋とクルーズ船に足をかけ、隙間から下に降りた。
桟橋でレナを押さえて立ちつくしている私には彼の姿も見えなくなった。
後を追って海に飛び込んだんだと思った。
大型クルーズ船が停泊しているくらいだから、かなり水深は深いはずだ。
二人とも助からないかもしれない。
どうしよう。
長い時間が過ぎたように思ったが、実際はほんの数秒だったのだろう。
パパはすぐに姿を現し、濡れねずみのカナをスーパーマンのように引き上げた。
ああ
良かった。
騒ぎに気づいて桟橋にいた他の人たちが集まってきた。
びしょぬれで泣きわめいているカナを見て、私のウィンドブレーカーを着せてやれと即す。
娘が生きていたことで胸がいっぱいになっていた私は、まったく気づいてなかった。あわてて脱いでカナにかけてやる。
水を飲んだり怪我をしている様子は無い。
ただ驚愕と恐怖で泣きわめいているだけだ。
後からパパに聞いたら、彼は飛び込んだのではなく船と桟橋の隙間で体を支えて水面まで降りたのだそうだ。
そこへちょうど、一度沈んだカナがぷかりと浮いてきた。
そこを捕まえて引き上げたという。
なんというタイミング。
パパ、ありがとう。
本当にスーパーマンみたいだったよ。
ああ、神様。